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いい人だ

『……で、これからどうするんだ』


 左さんの講義が真ん中さんに叩き潰されたぐらいのタイミングでノーディが話しかけてきた。

 どうするも何も、決まっている。


『まずは依頼板だ』

『さあ、冒険者の定番は起こるのかなー?』


 起こったらその時はお前らが対処してくれ。俺にはどうもできん。


『……定番ってなんだ?』

『……』

「?」


 何故かリンはノーディに説明しようとせず黙り込んでしまう。

 詳しい内容は知らないのか?


『……(ちらっ)』


 その考えを俺は即座に切り捨てる。あれは単にネタフリをまっているだけだ。『な、なんだってーっ』みたいなことをやりたいだけだ。

 面倒なので無視してノーディに説明しよう。


『……|ω・`)(ちらっ)』


 こいつ、脳内に顔文字を……!?

 しかも俺だけに送ってくるとか無駄に高度だな! それだけにうざい! わかったよ、やればいいんだろやれば。


『知っているのかリンさん!』

『うむ、冒険者しゅじんこう定番さだめとは、悪徳同業者に絡まれ、一般的に見てかなうはずのない力量差があるはずの新人ルーキー強者ベテランを打ち倒し、周りからちやほや騒がれる現象だ!』


 望んでいたであろう言葉に、リンはすぐさま反応してノリノリで答えていく。セリフに一切乱れがないのが無駄に凄い。本当に無駄だが。

 

『……そうか。やっぱり強いやつが得をするんだな』


 そしてノーディは変な納得をしていた。まあ、その通りではあるんだけどさ。

 この世界の人間にはわけがわからないだろう会話を従属パスで繰り広げている間に、依頼の紙を張ってあるコルクボードにたどり着く。


『んー、森の中に生えている薬草を取ってくる。街道に出てくる魔物の調査(Dランク以上)。……うん、ランクごとに分かれてるな。えーっと、Fが最低でSが最高だから、こっちか』


 Fランクの依頼ってろくなものないな。さすがに街中の手伝いみたいなのはないが、報酬はかなり安い。二、三回こなしてもちゃんとした宿に泊まれば一日で消える程度の金しか手に入らないようだ。

 そのかわりに十回ほど依頼を達成すれば、最低限ギルドで働ける人材だと評価されるらしい。Fランクはお試し期間ってことだ。それを考えても、これからしばらくは節約しないとならないが。

 

『……? ちょっと待て、金はあるのか』

『んあ? ……ああ、忘れてた』

『……おい』

『いやいや、金がないとかそういう意味じゃないって。ちょっと失礼』

『あ、そういえば入れっぱなしだったね』


 首をかしげているノーディに背負わせていた麻袋から、オークの耳を一つ取り出す。


『……それは』

『そ、あのオークから切り取った奴だ。さすがに肉は持ってこれなかったけど、オークやらゴブリンってのはギルドから常に討伐依頼が出てる。ランクに関係なくな』


 さっき見た依頼書にも、オーク討伐はDランク以上推奨・・と書いてあった。要するに狩るならそれぐらいの実力を身に着けて来いってことだ。下のランクだからといって狩っていけないわけではない。


『で、狩った証拠としてこれを提出するとその分の報酬がもらえるから、宿やら何やらの支払いはこれで手に入れた分で払う予定だったんだ。ノーディに言うの忘れてたな、すまん』

『……そうか』

『ほんとに悪かった』

『……別にいい』


 いいっていうけど、不満そうな思考が漏れてるぞ。言ったら余計怒らせるだろうから言わんけども。


『めんどくさい彼女?』

『ノーディは雄だ』


 随分と変わったもんだとは思うがな。元から人に近い知能と思考を持ってはいたが、最近はさらに磨きがかかっている気がする。

 知識や経験が足りないからか子供っぽく思えるときもあるけど、さっきの会話を聞ける奴がいたらこいつがグリーンウルフだとは信じられないことだろう。あるいは異常個体と思われるかもしれない。

 まあ、異常なのはルイディアさんたちも認めていたし、普通ではないんだろう。


『とりあえず、オーク討伐の報酬も確かめたし換金するか』

『値段を誤魔化されることはないと思うけど?』

『念のためだ。意味がないならそれでいい』


 他人には見えないように笑う。用心なんて無駄になった方がいいんだ。


『陣もちょっと変わったよね』

『変わろうとしてるからな。ちょっとは変わってないと困るぞ』

 

 性根の方はそう簡単に変わらないだろうけど、表面上でも甘いところはなくしていかないとな。利用されて終わるのだけは嫌だ。


「すいません。オークの討伐証明お願いします」

「……失礼ですが、ご本人で討伐されたものでしょうか」

「俺っていうかこいつらですが」


 俺の横で退屈そうに座っているノーディとリンを指さす。

 それと同時に、リンが話しかけて来た。


『常時討伐依頼ってさ、普通は確認とかいらないんだよね?』

『そうだなー。たとえ明らかに弱そうなど素人だろうと、目的さえ達成してればいいからな』


 しかし、目の前の真ん中さんはいまだに難しい顔をしてうなっている。

 まあ、そりゃ、グリーンウルフとスライムが協力したところでオークは倒せないだろうしな、普通は。こいつらが異常なことなど真ん中さんは知らないわけだし。

 それでも討伐証明部位を持ってきているのだからそんなことは関係ない。受付の人は黙って受理して報酬を渡せばいいだけだ。たとえ、それが不正によって手に入ったものだろうとも。

 だからこそ。


『いい人だ』

『……お人よしだろう』


 そう。

 真ん中さんはいい人だ。

 少なくとも、冒険者のランクを金で買い取ろうとしているかもしれないやつを心配するぐらいには。

 ルイディアさんに聞いたことだが、金に余裕のある馬鹿が討伐証明部位を他の冒険者から買い取ってランクを上げようとすることも年に何回かあるらしい。

 しかし、そういうやつは大抵がDランクに上がってすぐに死んでいく。理由は実力と経験の不足。ギルドからしても、人格の見極めの期間を潰されるのであまり歓迎できる行為ではない。

 それでもこの行為を咎められることはない。なぜかといえば、ルールを明確に無視しているわけではない上、指摘して暴れられても面倒、突っかかってこられても面倒、金に余裕のあるやつは大抵が夢見がちな貴族だからその関係でも面倒と、取り締まったところでいいところが一つもないからだ。

 要するに『やるなら勝手にどうぞ。でも責任は持たないよ』ってことなんだが、そこを真ん中さんは心配してくれているわけだ。

 理由が俺が子供だからなのか、単にそういうやつを見過ごせないのかは知らんが、人としては好感が持てる。社会人としては職場の輪を乱すと嫌われるからやめといた方がいいと思う。飲み会でノリ悪い奴って思われるよ? まあ俺は職場の風景とか知らないけどな!

 話がそれたが、俺は人の行為は素直に受け取っておくタイプだ。なので、なるべくさりげない風を装って大丈夫ですよーって伝える努力をしてみよう。


「あれ? もしかして冒険者になる前の討伐は駄目でしたか?」

『うわ、白々しい』


 黙れリン。


「あ、いえ、それは問題ありませんが」

「ああ、よかった。もしそうだったら今日の宿もご飯もなくなるところでした」


 はい、さりげなーく一文無しってことを伝えましたよ~? まさかこんな子供を寒空の中放り出したりしませんよね~?


『今、夏みたいな暑さだけど』


 黙れリン。


『……さりげなかったか? さっきの』


 黙れノーディ。しっかり冗談っぽい口調で話しただろうが。

 

「……申し訳ありませんでした。オークの耳が十体分で、二回分の報酬となります」

「ありがとうございます」


 ほんの少しの沈黙の後、真ん中さんはすぐに報酬を渡してくれた。暗算速いな。慣れてるだけかもしれんが。

 これで宿代、食事代合わせて十数日分ってところか。


『多すぎない?』

『このランクになると本気で命かけなきゃならなくなってくるからな。それに冒険者は数人で組んで行動することが多い。これでもそこまで余裕はないと思うぞ』


 Cランクでなかなかにいい暮らしができるぐらいの稼ぎだそうだ。BやAになると難しい依頼が多くなる分報酬も破格になる、と。

 さて、それはともかく、今日のところはギルドに用事もなくなったな。


『何か忘れてることあるか?』

『んー、無いと思うよ。ギルドに関しては登録と換金以外ぐらいだし』

『……覚えはない』

『そうか』


 それじゃ、後はルイディアさんたちを待つだけだな。ついでにもうちょっと依頼見ていくか。

 そう考えて依頼板を振り返ると、ちょうどエドさんが階段を下りてきている所だった。話は終わったのだろうか。

 軽く辺りを見回すエドさんに近づくと、向こうも気づいてくれたらしい。


「よう、ジン君。登録はできたかい?」

「はい。特に問題もありませんでした。ところでルイディアさんたちは?」


 下りて来たのはエドさんだけだ。ルイディアさんとミリアさんはいない。


「ああ……少し話が長引いてるんだよ。俺は伝言役で下りてきたんだ」

「伝言?」

「ああ、『私たちはしばらく拘束されそうだから、ジン君はこれから自由に行動してね。おすすめの宿の場所は覚えてるだろうし、特に問題はないと思う。これから会うことができるかはわからないけど、頑張って。死なないようにね』だそうだ」

「そうですか……」


 別行動、か。

 まあ、当然だな。あれほどの人かずっと俺にかかずらっているわけにもいかないだろうし、元から別れないとならなかった。だから、当然なんだ。当然だ、けど。


 少し、寂しいな。


 なんだかんだとあったせいで、この人たちと過ごしていた一週間は恐ろしく濃かった。それ故に、別れるのは寂しくもある。


『陣、だいじょーぶ?』

『ん? ああ、大丈夫だよ。そりゃあ寂しいけど、それだけだからな』


 心配そう、というよりはからかい気味に声をかけてくるリンに、内心で苦笑しながら返す。

 確かに心細くはあるが、自分で決めたことだ。それに、ここには俺の知り合いはいない。つまり人間関係に縛られないということで、まさしく自由に行動できるわけだ。

 人目を気にせず隙に行動できるってのはでかいぞ? 別に罪を犯すわけでもないけど。


「わかりました。エドさん、今までありがとうございました。このご恩は必ずいつかお返しします」

「いやいや、俺は大して何もしてないよ」

「いえ、本当に助けられましたから。ルイディアさんにもそう伝えておいてください」

「ああ、分かった。それじゃ、頑張って」

「はい、さようなら」


 階段を上っていくエドさんに手を振って、ギルドから出る。

 ああ、これで正真正銘、俺たちだけになったな。


『まずは宿だな。いやー、一人旅みたいだな』

『“魔物っ子蹂躙の旅 ~鬼畜冒険者編~”みたいな』

『エロゲーかよ』

『……本当に俺たちが泊まれるのか?』

『それに関してはルイディアさんの言葉を信じよう』


 雑談を交えて必要なことを確認し合いながら、俺たちは宿屋への道を歩き続けた。

 

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