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番外編②

こういう人です

「みんな~、ルイディア先生の魔物講座、はっじまーるよ~!」


 一体誰に言ってるんだろう、その言葉は。


「テンション高いね、ジン君」

「まあ、ちょっとやってみたかったので」


 いきなりリンたちの方を向いて甘ったるい声を出した少年は、照れたように頭をかいている。やってみたかったのはさっきの台詞なのか、それともあの声を出したかったのか。


「さっきの声、完全に女の子の声だったよ? すごいね」

「ずっと練習してたらある程度はできるようになりますよ」


 どうしてそんな練習をしてたのかも気になるけど、今は魔物についてだね。今度はあまり横道にそれないように……ように…………うん、努力しよう。

 

「さて、まずは何について聞きたい? 大体の事ならこたえられると思うよ」

「それならスライムとグリーンウルフについてお願いします。スライムが弱くて、グリーンウルフが臆病ってことしか知らないので」

「あれ? それだけ? 前にエドと話したりしたんじゃなかったっけ」


 テントに行かせた時に、魔物なんかについて少しぐらい教えてあげるように言ったはずなんだけど。


「確かに教えてもらったんですけど、ほとんど魔物全般に関してでしたから。それに、すぐに竜とか騎士団の話に移っちゃったもんで」

「……なるほど」


 何やってるの、エド。確かに魔物のことについては教えてるけど、そういう意味じゃないでしょ。しかもすぐに別の話って……いや、こっちは私が言えた義理じゃないか。

 ま、まあ、そういうことなら代表的な特徴から教えていこうか。


「まず、スライムは言ってた通り弱い種族だね。その上、どんなところにも現れるから基本的に他の魔物の餌になりやすい。あ、魔物が魔力を主な食料源にしてることは知ってる?」

「あ、はい。他の魔物の核とかも食べるんでしたっけ」

「そう。強い魔物ほど魔力しか食べなくなるよ。まあ、スライムは例外だけどね。過去に現れた数少ない強いスライムは、あらゆるものを消化して食らってるから。

 で、その強いスライムについてなんだけど、基本的に中途半端に強いスライムっていうのは目撃されることがないんだよね。その理由は、半端に強くなっても人の目に触れるところに出てくるまでに他の魔物に狩られちゃうから、十分に強くなって出てきてからか、生まれたばかりじゃないと出会うことはまずないんだね」

「ちなみに、その中に体が黒いスライムっていました?」

「それは資料や伝説には残ってないね。まあ、かなり珍しいことには変わりないけど」

「ですよねー」


 乾いた笑いを漏らすジン君。普通は見世物として喜ぶ人の方が多いんだけどね。彼にとっては注目を集めるのはあまりよろしくないことらしい。十の注目を集めると必ず一の悪意がつく、税金にしては高すぎる、と言っていた。

 ……ジン君って十五歳だったよね? 一体何があったらそんな言葉が出てくるんだろう。


「それで話を続けるけど……こっちはスライムというよりもリンの特徴だね」

「あ、そういえば聞いてませんでしたね」

「ごめんね、完全に忘れてたよ」

「いえ、俺も同じなので」


 今日は野営地を出発して三日目だ。何のトラブルもなければ明日には街に着くだろう。思い出すのがちょっと遅すぎたなあ。

 

「でも、忘れるってことはそれほど変わったところはなかったってことですか?」

「というより、何が変わってるのかわからないんだよねぇ……」


 そう、あの時調べたリンの体には、何ひとつ異常がなかった。教えてもらったステータスのは普通のスライムをはるかに凌駕していたけど、オーク殲滅戦の後だからステータスやレベルが上がっているのは当然だ。その上、中途半端に強いスライムはほとんど見られないせいで、ステータスの上昇幅がおかしいのかどうかもわからない。

 ギフトを持っているのも教えてもらったけど、元々魔物がギフトを持つことはおかしいことでもない。おかしいと言い切れるのは、見ただけで分かる体色の変化と、知力が人間並みにあることだけ。どちらもスライムのことをよく知らない一般人でもわかることだ。

 ただ、リン自身のことはわからなくても、ギフトについては少しわかったことがある。


「リンのギフトはかなり優秀な性能だったよ。その名のとおり、なんでも吸収してしまう」

「それは一応知ってます。今のところ、物理攻撃、魔力、状態異常、それとスキルの効果なんかを吸収してますね」

「へえ、スキルの効果は知らなかったなあ。私が確認したのは知識の吸収が早いことぐらいだったよ。……というか、状態異常ってどういうこと?」

「前にリンが間違って毒草食べちゃったことがあるんですけどね。少量しか食べてないのにすぐに状態異常になったんです。で、毒草の毒を普通以上に早く大量に吸収してしまった結果ではないか、と」

「なるほど、メリットばかりじゃないってことだね。その様子だと他にも弱点はありそうだ」

「今もいろいろ試してはいます」


 まあ、一切不都合がない方がかえって怪しいよね。サイラスのギフトにすらそれ・・はあるわけだし。……あれは弱点なんてかわいいものじゃないけど。


「スライムについて話すことはそれぐらいかな。他に聞きたいことはある?」

「んー……いや、特にはないですね。グリーンウルフの方お願いします」

「はいはい。あ、それならウルフ系についても説明しとこうか」


 いや、どうせなら魔物の系統から話した方がいいかな。ちょっと長くなっちゃうけど、おぼえておいて損はないだろうし。

 ……これは横道にそれてないよね。うん、大丈夫大丈夫。ジン君もぜひお願いしますって言ってくれてるから大丈夫。


「まず、魔物の系統は約七種類あって、それぞれ獣種、鬼種、人獣種、鳥種、亜竜種、死霊種、核種って呼ばれてるんだよ。グリーンウルフは獣種、スライムは核種だね。あ、たった七種類って思うかもしれないけど、この他にも海竜種とか海獣種とか生息地なんかによって違う種類もいるんだよ。でも、結局亜竜や獣の分類に入るから分ける必要があるのかって言われててね。私としては、体の構造から違うのもいるんだから別の分類にするべきだと思うんだけど。だって、魚も獣のうちに入るって言われてるんだよ? 魚人も人獣に入れられてるし、おかしいよね。それはそれとしてグリーンウルフなんだけど、ウルフ系は獣種の中でも変わっててね。生息地が異なると性格も同じく全く違うものになるんだよ。例えば森に棲んでるグリーンウルフは臆病だ。これはジン君もよく知ってるよね。でも、これが砂漠にすむデザートウルフとかになると、とても狡猾になる。他の魔物が仕留めた獲物を数体で横取りしたり、弱い獲物を的確に狙ったりね。ああ、それとブラックウルフなんかは特にそれが顕著なんだ。基本的に群れで狩りをするウルフ系の魔物には珍しく、立った一体で行動するんだよ。その性格は孤高ともいわれるほどに気高いらしい。私も何度か見たことがあるけど、単体で行動できるだけあってとても強かったよ。強いと言えばノーディのステータスだけど、あれもグリーンウルフの平均と比べたらかなり高いんだ。普通は成人男性と同じぐらいだからね。もしかしたらノーディは群れの長とかだったのかも――」

「ルイディアさん、ルイディアさん」

「ん、何?」


 説明を遮って、ジン君が手を上げた。眉をひそめて難しそうな顔をしている。何か分かりにくい部分があったのかな?


「なんでグリーンとブラックなのにデザートになるんですか? そこはイエローかブラウンでは」

「ああ、それは毛皮が関係してるんだ。デザートウルフの毛皮は日が照り付けてる昼間には砂の色をしてるんだけど、日が隠れると灰色になるんだよ。これは一時期、魔術によって目立たない色へと変色させていると考えられていたんだけど、実際はそういう仕組みをした普通の毛だということが百年ほど前に分かったんだ。ちなみにそれを発見したのも異世界人だと言われてるんだよ。その異世界人もジン君と同じように魔術がない世界からやってきたみたいでね。やっぱり魔術に頼り切っていると別からの視点が欠けちゃうね。思い知らされたよ。といっても魔術にも批判することが無意味なぐらいの結果があるから、あくまでも臨機応変にってだけの話だけど。あ、他に何か質問ある?」

「そうですね……。では、各種類の魔物の代表例を教えてください」


 ふむ、各種類の代表ね。鬼種や人獣種はいいけど、鳥種は少し難しいかな? まあ、数例話せば問題ないか。


「それじゃあ、まずは獣種からいくね。獣種の代表と言えばウルフ系のほかにベアー系やキャット系がいてね、ベアー系は主に森や火山地帯にいて砂漠なんかには見られないんだ。理由としてはあの大きな体を維持するのに、水や獲物があまりとれない砂漠は適してないからと見られていて――」



  ----------



「ふう~。大体こんなところかな?」

「いやー、大変勉強になりました。長い間拘束してしまってすみません」

「いやいや、私も楽しかったからいいよ。むしろ長話に付き合わせちゃってごめんね」


 横道にそれないようにって思ってたのに、全力で突入しちゃったし。レイドにもよく言われてるのにねえ……。

 けど、私の思いとは裏腹に、ジン君は笑顔を見せる。


「むしろ良かったですよ。何も知らないんだから、知りたいことだけ知るより、経験や意見を交えて教えてくれるほうがありがたかったです。っていうか、本当にいろいろ知ってますねルイディアさん」

「……」


 ……いい子だなあ。

 大体の人たちは困った顔か、露骨に迷惑そうな顔をしてくるものなんだけど。

 

「ん」


 純粋な感謝を向けてくる彼に感動を覚えていると、突然体が揺れる。どうやら馬車が止まったようだ。

 外を見ると、わずかに空が赤みかかっている。もうそんな時間か。


「ジン君、今日はここらで休むみたいだ」

「あ、もうそんな時間ですか。ちょっとテント張るの手伝ってきますね。ほれ行くぞ、リン」

『はいよ~』

「いってらっしゃい。私はちょっとレイドのところ行ってくるよ」

「はい、今日はありがとうございました」

「うん、こちらこそ」


 軽く手を振って、走っていくジン君たちを見送る。リンはピョンピョンと跳ねて……いや、結構重い音してるね。どすどすと跳ねていった。

 うん、今日は楽しかったな。喉が痛くなるほど話したのは久しぶりだよ。

 できることならもっといろいろ教えてみたいけど、予定通りに進んでるし明日にはもう着いちゃうよね。


「帰ったら仕事かあ。面倒だねえ」


 ジン君みたいに素直な子にいろいろ教えるだけの仕事ならいいのに。偏屈たちの相手とかしたくないよ。あーやだやだ。


「……明日はジン君とずっと話とこうかな」


 せめて楽しい思い出でも残しとかないとやる気も起きない。

 ……ああ、仕事めんどくさい。



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