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目が覚めると

よっしゃー! 連日更新だぁ!

 目が覚めると、そこには天井・・があった。


「……」


 何度か瞬きをしてから周りを見渡す。

 少し汚れている白い壁、戸が開けっぱなしの古ぼけたクローゼット、漫画や参考書が同列に置かれている棚、そして誰かの座っている見慣れた勉強机。


 誰だろう。


 身長は160を少し超えるぐらい、髪は真っ黒で、肩につくぐらいまで伸ばしている。

 男か女かは……わからない。

 後姿だけだと、どちらのようにも見える。

 服装も似たようなものだ。誰が着ていても違和感がないような、無難な部屋着。

 その『だれか』は熱心に勉強をしているようだ。

 さっきからずっとペンを動かし続けている。こちらに気づく様子もない。


 ……話しかけてみよう。


 後ろからいきなり声をかけられたら驚くだろうか、などと考えながら口を開く。


「ねえ」


 『だれか』はペンを止め、こちらを振り返り――



ーーーーーーーーー



「ん……」


 目が覚めると、日の光が見えた。

 どうやらテントの中に光が入ってきているようだ。


「ぐっ」


 光が当たっていることを認識した瞬間、頭が痛みを訴える。

 あだだだだ……。なんだこれ、頭痛い。

 鋭い痛みじゃないが、芯からずきずき痛くなる。おまけに気持ち悪い。

 吐くほどじゃない、というか吐きたくても吐けない感じの気持ち悪さだ。いや、ほんとになにこれ? なんかやったっけ昨日……。

 あ、だめだ、気持ち悪い。頭使おうとすると吐き気が増す。


「うあ゛~」


 ゾンビみたいな声を出しながら、起こしかけた体をまた横にする。横になっても気分が悪いのは変わらない。せめて吐ければ楽なんだが。


『……おい』

「ん~?」


 楽な体勢を探しながら、かけられた声にゆっくりと振り向く。

 そこには、行儀よくお座りをしてこちらを見ている緑色の狼がいた。

 えー……? ……あぁ、グリーンウルフか。


『はよぅ』

『……今、ここにいるの忘れてた』

『んー』


 曖昧に返事を返して、また楽な体勢を探す。ちょっとでも軽減しないと会話もできないな、これ。あと、忘れてたのは許せ。

 あ、これが一番楽だな。よし、準備オッケー。


『で、なんか用か』

『……昨日のこと思い出せ』

『はん?』


 昨日? やっぱりなんかあったのか昨日。

 痛みを訴える頭を無理矢理動かして、昨日の出来事を思い出していく。

 朝からサイラスさんたちと狩りに行って、んでから、えーと、何やかんや出サイラスさんが大暴れして……あ。


『……思い出したか』

『……おう』


 ああ、そうだったな。ちゃんと思い出したよ。

 ……少しテントの中を見回すが、グリーンウルフ以外には何もいない。

 まあ当然だ。あいつがここにいれば、声をかけてくるぐらいはしただろうから。

 わずかに寂しさを感じながら、俺は立ち上がる。


「よっと」


 それはそれとして、まずは団長さんのところに行かないと。

 まだ頭痛も吐き気も残ってるが、これぐらいは我慢できる。たぶん。


『……大丈夫か』

『おう』


 グリーンウルフが心配そうに歩み寄ってきた。随分親身になってくれるものだ。まあ、お互いあの時の恐怖を体験したからな。


『別についてこなくてもいいぞ。外にはサイラスさんもいるだろうし』

『わかった』

『早いな』


 いつものちょっとしたタメもなくなってるじゃねえか。そんなに怖いか。いや怖いんだな。色々あったし。

 素早い手のひら返しに呆れつつも、テントの外に出た。

 降りつけてくる日光を手で遮り、暑さを感じる中を歩いていく。

 驚いたことに、昨日の惨状はもうほとんど残っていなかった。まだ片づけをしている人たちが何人か残っているが、それを除けばこの数日で見て来た日常と変わらない。壊れていたテントや地面も元通りだ。

 片づけをしている人たちも、普段から慣れているのか、素早い手際で散ったものを片付けていっている。この分なら、今日の昼か夕方には完全にいつも通りのキャンプに直るだろう。


「あ」

「お」


 ぼんやりとその光景を見ながら歩いていると、見知った人がいるのに気付く。相手もちょうどこちらを向いていた。


「おはようございます。グリムさんも片づけですか」

「おはよう、ジン君。そうだよ、昨日はサイラスさんが暴れたからね。後始末も一苦労だよ」


 挨拶をしながら近づいて行く。グリムさんは苦笑しながら手を上げて答えてくれた。


「お疲れ様です。すみません、手伝いもしないで」

「いやいや、ジン君も昨日は大変だったからね」

「そう、ですね」


 昨日のことを思い出し、顔をしかめる。

 本当に大変だった。

 俺がこの世界に来て、あれ以上に深く後悔をしたことはなかっただろう。そして、もう二度としたくない。


「ところで、ジン君はこれからどこへ?」

「ああ、団長さんのところです。今後のことの相談をしに」

「なるほど、まあ頑張って来てくれ」

「ありがとうございます。グリムさんも、お仕事頑張ってください」

「はは、そうだね。早く終わらせて、馬の世話でもしに行こう」

「それでは」


 お互い笑顔で別れを告げる。

 グリムさんは仕事に戻り、俺はまた歩き出した。


「……あんな普通の会話したの、久しぶりな気がする」


 思わずつぶやく。

 今までは、大抵が謝罪か、質問するか、でなければサイラスさんに文句を言うぐらいしかしていなかった。

 普通に挨拶をして、普通に予定の話をして、普通に別れることが今まであっただろうか。

 あったかもしれないが覚えてない。なにせ、その他の会話のイメージが強すぎる。しかもその大半がサイラスさんとの会話だ。なんなんだあの人。記憶まで侵食してくるのか。


「まあ、どうでもいいか」


 あっさりと考えを切り捨て、歩くことに意識を移す。こけたら一大事……じゃ、ないんだったな、今は。注意するに越したことはないけど。

 やれやれ、慣れるのに時間がいりそうだ。


「よお、ジン」


 あと少しで団長さんのところに着くだろうかというところで、急に後ろから声をかけられた。

 この数日であまりにも聞きなれた声だ。慣れ親しんでいるとすら言える。

 なので、俺は足を止めずにそのまま挨拶をする。


「おはようございます、サイラスさん」

「いや、こっち向いて言えよ」

「どうせ行く先が同じなんだから、止めるだけ無駄でしょ?」

「礼儀ってもんがないのかお前には」

「あるに決まってるでしょう、失礼な」

「失礼なのお前じゃねえ? 今この状況で失礼なのどっちだと思う? なあ」

「……フンボルトペンギン?」

「誰だよ」


 水族館のアイドルですかね。人によって意見は分かれるだろうけど。

 ちなみに、俺はサメが好きでした。水槽の中に突き落とされて目の前を横切ったときの衝撃は今でも忘れられない。かっこよかった。


「そろそろこっち向けって、昨日のこと根に持ってんのか?」


 足が止まりかけた。

 

「……」


 何とか衝動を抑え、気合で一歩を踏み出す。

 こけたりはしなかった。

 ただ、一瞬とはいえ動揺を表に出してしまったのは失敗だろう。


「そろそろ着きますよ」

「そうだな」


 顔を向けずに言うと、それ以上何か言うでもなく、サイラスさんは頷いた。

 ……別にこの人のせいだとは思ってない。きっかけを作ってしまったのは自分なのだから。

 ただ、やっぱりやるせない気持ちはあるのは、しょうがないことだ。

 そんなことを考えているうちに、団長さんのテントにたどり着いた。


「着きましたね」

「おう。団長、入ります!」

『ああ』


 サイラスさんが声を張り上げると、布一枚隔てた中から団長さんの声が聞こえた。そういえば、ルイディアさんも一緒にいるんだろうか。だとしたら手間も省けるな。

 

「ジン君、おはよう」

「おはよう。目が覚めてから来てくれとは言ったが、なかなか早かったな」

「おはようございます。テントに光が入って来てたもので」

「なるほど」


 団長さんもルイディアさんも、昨日のことなどなかったかのように平常運転だ。全員慣れてんなあ。

 

「レイド、まずはこっちの用事から済ませるよ。ジン君も気になるだろうしね」

「ああ」

「あ、もう済んだんですか?」


 思いのほか早かったことに驚いて、つい声に出してしまった。

 いやだって、昨日の深夜に始めたとしたら、今まで6時間ぐらいしかたってないぞ。そんな短期間で分かるぐらい簡単なもんだったのか、あれ。


「まあね。とりあえず、この子・・・は君に返すね」


 そう言って、ルイディアさんは自分の後ろにあった麻袋・・を俺に差し出してきた。


「ありがとうございます!」


 叫びながら受け取り、中を見る。

 真っ黒な液体状の生物……俺の最初の魔物が、プルプルと揺れた。


『ちょっとぶり?』

『ああ、六時間ぐらいかな――リン』


 随分と流暢に言葉を話すようになったものだ。出会った当時は一切何もしゃべることなんてできなかったのに。

 あれはたしか、1週間ちょっと前のことだったか? 

 その後、竜が襲ってきて……あのときは本気で心配したな。リンが死んだんじゃないかと思って。

 俺が麻袋を覗いて――

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