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化け物 対 竜

「ゴガアアァァァァァァァァァァァ!?」


 戸惑っているかのような悲鳴を上げながら、人の十数倍はありそうな竜の体が吹っ飛んでいく。

 まるで吟遊詩人の馬鹿話のようだけど、こっちは本物だ。目の前で見ているんだから、本物も偽物もないけどね。

 それにしても、また強くなってないかなあ、サイラス。

 前は、助走でもつけないとあの重さは無理って言ってなかったっけ。今回は助走はつけてたけど、包囲に飛び込んで、包囲してる子たちが避難してから投げてたよね。つまり助走はつけてないのと同じってことで。


「いや、化け物だな」

「何を考えてるかはわからないけど、確かにその通りだね」


 ジン君がぽつりとつぶやいた言葉に、全面的に同意する。

 あれはたぶん、何からどう見ても化け物だ。それこそ竜という種族から見ても。

 戦えるのはまだわかる。

 圧倒できても不思議というほどじゃない。

 だが、あの巨体を亜人でもないただの人種が投げ飛ばすのは、サイラスを知らなければ絶対に認められない。知ってても冗談だろって言われることもあるし。

 って、竜がブレスはこうとしてる。

 あ、頭から地面に叩きつけた。うわ、暴発してる。


「一応聞いておきますけど、あの人、人間ですよね?」

「人種であることは間違いないよ」


 ステータスの欄にちゃんと職業があるから、魔物ではないんだよ。本当に純粋な人間なのかはわからないけど。

 初めて力を見たときは、超凄腕の魔術師が肉体強化系の魔術を使用してるんだと思ったよ。その割には私が一切魔力を感じ取れなかったのと、渋々見せてくれた彼のギフトで魔術師じゃないのは・・認められたんだっけ。

 ん、今度は爪で薙ぎ払ったか。あれだけ近くにいるから避けられないし、上に跳んだら的になるって考えてのことかな?

 でも、普通に片腕で止められて、ついでとばかりに爪をへし折られることは想定してなかったようだけど。


「なんでそんなに落ち着いていられるんだ、三人とも」


 そりゃあ、私にとってはあの程度、驚くほどじゃないからね。


「ヘタレ、結界」


 微塵も気にしないのも、それはそれでどうなの?

 

「すみません、お名前お伺いしていましたっけ?」


 あ、そういえば彼女の紹介してなかったね。

 簡単には教えてくれないだろうけど、頑張ってねジン君。私たちは口止めされてるから。

 まあ、彼らのことは彼らに任せておいて大丈夫でしょ。

 私は私の仕事をしよう。


「レイドたちも観戦してるか、やっぱり」


 またぶん投げられている竜を見ながら、一応怪我人の確認をしに騎士団のもとへ向かう。

 彼らはこちらに気づくと、雑談をやめて一様に騎士団式の礼をしてくる。私そんなに偉い人じゃないんだけど。

 よく見ると、その顔は全員若い。レイドを除けば、三十にいっているかいないかの人が一番年上のように見えるぐらいだ。

 これ、もしかして……。


「レイド、もしかして彼らは全員後入り?」

「その通りだ」


 平然と頷くけど、竜相手に一人も設立員を入れてないのはどうなんだろう。よそ様ならふざけてるって言われてもしょうがないよ?

 事実、弱かったとはいえ【戦竜】クラスが出てきてる。

 もしもあれが本当に強い【戦竜】だったら、サイラスやエドがいない状況だと誰かしら死ぬこともあり得たと思う。


「問題ない。彼らは私と副団長が鍛え、サイラスやアンジェリカを相手に日々訓練している者たちだ。たかが・・・竜如きに遅れを取ることはない」

「わあ~頼もしい~」


 そっかあ、鬼畜レイド化け物サイラスにきたえられてるのかあ。

 ……よく死ななかったね、君たち。

 そう同情の目線を向けると、彼らは涙をこらえるか、顔を青くして微妙に体を震わせるかの二つの反応をとった。

 ていうかそれ以外の反応がなかった。


「少しは手加減してあげた方がいいんじゃない」

「死ぬよりマシだろう」


 それはそうだけど……あ。

 

「竜が飛ぼうとしてる」

「む」


 私の視界の端に、偶然にも翼を広げて飛び立とうとしている竜が映った。

 あれ? サイラスはどうしたの?

 あんなに大きい隙を見逃すなんて、と思いながら少し横に視線を移すと、サイラスはすぐに見つかった。

 でも、彼は特に飛び立つのを止めるでもなく、じっと見守っている。今までの猛攻が嘘のようだ。

 何を考えているんだろう。

 

「……なるほどな」


 レイドはサイラスが考えていることが分かったのか、目を閉じて深く頷いている。


「どういうこと? 一人で納得してないで説明してよ」

「する必要もないと思うがな、あの竜の行動を思い返せば」


 竜の行動? たしかブレスを吐こうとして、その後に爪で攻撃――いや、違う。

 レイドが言ってるのはもっと前だ。

 この竜は、村を一つ焼き払った。

 おそらくは逃げまどい、泣き叫んだであろう村人たちを、追い回しながら、楽しみながら殺した。

 サイラスはあの竜の嗜好は知らないはずだ。

 死体は確かに焼け焦げたものだけではなかったけど、そこから性格を診断するようなことは彼はしない。

 だけど、そんなことは関係ない。

 

 重要なのは、竜が村を焼いた・・・・・・・ということだけ。


 彼は同じことをやり返そうと思っている。

 逃げまどい、泣き叫ぶであろう竜を、追い回しながら、苦しめて殺そうとしている。

 予想じゃなく確信できる。

 だって、彼の顔は笑っているから。

 まるで希望にすがる竜を嘲笑うかのように。


「でも、自業自得だね」

「そうだな」


 だからといって、止める気はさらさらない。

 むしろそれぐらいしないと釣り合わない。

 おそらく、ジン君を除いたこの場の全員がそう思っている。後ろの団員の子たちも『ああ、ご愁傷さま……』、『終わったな、あいつ』、『竜の悲鳴ってうるさそうだな』と平然と竜が空に飛ぶのを見送っているし。

 伊達に地獄の訓練受けてないね。この程度だと揺るぎもしないかあ。


『ゴアアァァ!』


 竜は、私たちを見下ろして、勝ち誇った声を上げる。

 だが、それと同時に、


「トカゲ風情が」


 サイラスが全力で地を蹴った。


『調子に乗ってんなぁ!』

『ゴボアッ!?』


 サイラスがいた場所は、私たちがいる場所と決して近くない。

 だというのに、地面を蹴った時の衝撃波と揺れがこっちまで伝わってきた。蹴られた地面には大穴ができているほどだ。

 その脅威的な脚力を持って、サイラスは一瞬で竜が飛んでいた場所まで到着し、その腹に蹴りを叩きこんでいた。

 ……さすがの私も驚いたよ。

 竜はかなり高くまで上昇していたのに、一瞬とはね。


「ねえ、もしかしてサイラスのレベル上がってる?」

「ああ、こないだ上がったといっていた」


 化け物がまた一つ成長しちゃったかあ。

 って、遠い目してる場合じゃないね。竜がサイラスと一緒に落ちて来た。落下地点はここからそれほど遠くない、かな。

 この辺りの土、もう一段補強しとこうか。キャンプ自体が壊されるのはさすがに勘弁だし。


「――ほう、まだ動くか」


 キャンプとその周辺をコーティングしようとしたところで、レイドがそう言った。

 顔を上げてみると、確かに竜がもう一度翼を動かして、上昇しようとしている。

 あの蹴りを受けて気絶しないのか……意外と耐久力はあるのかな?

 しかし、それはむしろ、サイラスにとっていい知らせだろう。

 いたぶる時間が増えたのだから。

 竜にとっては、まあ、しょうがないね。


『ギャアアアァァァァァ!!?』

「あ、落ちて来た」


 これ以上竜が飛べないようにか、サイラスは叩き落とすのでなく、翼を奪うことにしたらしい。

 破壊槌でも当てなければ折れそうにない翼を、素手でへし折っていた。痛そう。

 竜はそれ以上飛ぶことができず、真っ逆さまに地面へと落ちて来た。

 コーティングはしてあるので問題ないけど、落ちる地点がちょっとキャンプに近くなったのが心配だね。

 

「さーて、トカゲ野郎。これでご自慢の羽はなくなったぞぉ……次は、どうする?」

「ゴアアアアアアアアア!!」


 何事もなかったかのように無傷で着地したサイラスが、竜に対して挑発するように笑いかける。

 竜は一方的に殴られ、翼を折られた相手にも怯まず、咆哮を上げながらサイラスに噛みついた。サイラスは避けることもせずそれを受け――


「……で?」


 血の一滴も流さずに笑っていた。


「ッッ!!」

「なんだ、これで終わりか」


 サイラスはそう言って、あっさりと竜の口を広げて脱出する。

 竜の最強の武器も一切効き目がないとか、どんなステータスしてるんだろうね、本当。


「ほら、もっといろいろして来いよ、ブレスとか。今度は止めないで置いてやるからさ」


 しかも、両手を広げて煽りまでする始末。

 普通なら油断するなの一言も言えるんだけど、サイラス相手にその忠告は意味をなさないね。


「グ、ガ……ッ」


 言葉の意味は分からなくとも、挑発されているのはわかったらしい。

 おそらく人間なら顔を真っ赤にしながら、口をパクパクとさせているんだろうと想像できる。それほど怒りに満ちた表情だ。

 竜は、思いっきり息を吸い込んだ。

 ブレスかと思ったけど、違う。竜がブレスを吐くとき、こんなに大仰な予備動作はいらない。魔力さえ口に集中していればいいのだから。

 つまりこれは――

 

「全員耳を塞げ!」


 レイドの叫びに反応して、騎士団が反射的に耳を塞いだ瞬間。


「ゴア『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 竜の咆哮すら超える音と衝撃波が、この場の全員に叩きつけられた。

お前人間じゃねえ!(確信

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