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衝撃

「ゴオオアアァアァァァァァァァァァ!!」


 竜が咆哮を上げた。

 まるで私たちを叩きつぶすと宣言するかのように。


「だとしたら叶わないだろうね」

「別に意味なし。ただの雄叫び」

「あ、そうなんだ?」


 後ろからかけられた声に、返事をしながら振り返る。

 そこには、私が着ているものと同じ型のローブを深くかぶった私の部下がいた。

 顔は見えないけど、なんとなく面白くなさそうにしている感じがする。どしたの?


「少しは驚け」

「……仮にも上司に向かってその言葉遣いはどうなのさ」


 まあ、いつものことではあるんだけど、一応言っておかないとどこまでもエスカレートしちゃうしね。サイラスと話してた時は、あまりにも騒ぎすぎたせいで珍しくレイドが怒ってたなあ。


「年寄り、人生思い返してる場合か」

「その通りだけど言い方がひどい!?」


 確かに人間からしたら年寄りだけどさ……。

 しかし、彼女は私の言葉など気にせず、騎士団みんなと戦っている竜を見ている。うん、相変わらず自分の道を走るね、君。


「援護は」

「必要なさそうだね。まさか【戦竜ウォーリア】クラスが来てたとは思わなかったけど」


 【戦竜】。

 竜の中でも戦闘を好み、戦闘に明け暮れ、そして生き残った者たち。

 戦場に出続けたが故に、その強さは竜王を超える者もいる……なんて風に伝えられてるんだっけ? 確か。

 あれを見てると、一部の誇大妄想が好きな吟遊詩人がばらまいた馬鹿話にしか思えなくなるね。


「弱すぎ」

「だねえ。完全に手玉に取られてるよ」


 騎士団は竜が遠くに見えたと報告を受けると、レイドが指示するまでもなく即座に迎撃態勢を整えた。

 空にとどまったまま攻撃されたらまずいかもしれないと思って来たら、『団長のお客さんに手出しなんざさせませんよ!』ってすごくいい笑顔で言われたときはびっくりしたよ。私、いつから客人身分になったんだろう。

 しかも、キャンプまで来た竜が下りてきてからの対応はさらに速かった。

 まず降りてきた竜を四方に十人ずつ散らばって包囲し、正面にいる部隊が雄叫びや盾同士を打ち鳴らして多少でも気を引く。

 竜がそれにつられて攻撃をしてきたらすぐに範囲外に避けて、それと同時に両横から攻撃を仕掛ける。

 横に攻撃を加えようとすれば、後ろの部隊が魔法や弓で牽制する。

 後ろに尻尾が振るわれても遠距離からの攻撃しかしてないから当たらない。

 飛ぼうとする素振りを見せたら全員が攻勢をかける。

 理想という言葉を体現している動きだというのに、全員がそれを当たり前のようにこなしている。竜相手に討伐と生存を両立できる人たちなんて、それほどいないはずなんだけどね。

 今は竜の手掛かりの捜索に向かっていたレイドたちも合流して人数はさらに増え、指揮官もレイドに変わっている。アンは相変わらず一人で暴れてるけど……危険はなさそうだし大丈夫かな。

 サイラスがいなくても十分何とかなってるね。


「グガァァ!」


 見下していた人間にいいようにやられていた竜が、叫びながら今まで以上に暴れ始めた。


「くそ共がぁ、って言ってる」

「もう訳さなくてもいいんじゃないかな。私でも何となくわかってきちゃったし」


 律儀に竜の言葉を訳す彼女に、思わず苦笑してしまう。普段適当なのに仕事はちゃんとこなすんだね。

 そう思っていたら、彼女は私の言葉を鼻で笑ってこう言った。


「一々繰り返された方がむかつくに決まってる」


 前言撤回。この子、ただ性格が悪いだけだった。

 さっきから必要ない言葉でも翻訳してると思ったら……。


「……ま、同情はしないけどね」

「珍しい」


 彼女は特に表情を動かすでもなく、しかし本当に意外そうにしている。


「やったことがやったこと。しかも楽しんでるなんて救いようがないでしょう?」


 調子に乗っていたトカゲは、自分に立ち向かう私たちと、自分の言葉を訳せる彼女を見て、丁寧に楽しかった事を語ってくれた。恐怖させるためなのか、ただの趣味なのかはわからなかった。どうでもいいけど。

 あの竜が村を一つ焼き払った理由は、人間に火がつくのが、泣き叫んでいるのが、命乞いをしてくるのが面白いからだったそうだ。

 そんな目的で、たまたま目に入った村を襲ったわけだ。

 ふざけるのも大概にしろ、とこの場の全員が怒鳴り散らしたかっただろう。


「全く、気分が悪くなる」

「……ねえ」


 彼女が喋りかけてきて初めて、私の方に顔を向けた。


「私が言いたいのは言葉の後に『あんなくそ野郎に』って続かなかったことなんだけど」

「君は私のことを何だと思ってるのかなあ!?」


 さっきまでいろいろ語ってた私が馬鹿みたいじゃないか! っていうかわざとでしょ!? フードかぶってても笑ってるのはわかるからね!?


「君ね、前から思ってたけど「ルイディアさん!」ーって、え?」


 肩を震わせる彼女に詰め寄ろうとして、横合いから名前を呼ばれた。

 これ、エドの声だよね。なんでここにいるの? サイラスたちとゴブリンを従属させに行ってたはずだけど……。

 馬にまたがっているエドを見ながら、口を開く。


「何でここ「エド、他のは」ちょっと!?」


 君たちは私に何も喋らせない気なの!? 


「サイラスさんはいろいろとあって来てない。ジン君は……途中で置いてきた」

「なんで」


 置いてきた? つまり、サイラスと一緒にいるわけじゃないってこと? どうしてそんなことに。


「彼の弱さだと、竜の咆哮だけでも体に変調をきたす。連れてこない方がいいだろう」

「来なくてもよかった」

「……援護はいらないのか?」

「あれ」


 彼女が指さす先を見て、エドは呆気にとられた顔をする。

 私も見てみると、レイドたちはもうほとんどなぶり殺しのような様相を呈していた。なぶり殺されるのはもちろん竜だ。

 相当イラついてたんだろうね……。どっちが悪役なのかわからなくなってきてる。鎧のせいで表情が見えないのが余計に怖い。


「心配はそれほどしてなかったけど、まさか完全に無傷とは」


 私も少しぐらいは怪我をするかと思ってたんだけどね。無事なのはいいことだけど、みんなどれだけ強くなってるんだろう。


「お役御免。速くいけ」

「……ああ、わかった」


 少し複雑そうな顔をしながら、エドは手綱を握り直した。随分といろいろ考えてる表情かおだ。

 ジン君の可能性でも考え付いたのかな? 思わず置き去りにしちゃったとかなら後でお説教だねー。

 そんなことを考えていると、


「エド」


 彼女がエドを呼び止めて、


「なんだ?」

「くそヘタレ」


 なかなかにきつい言葉を言い放った。


「な、んのことだ」


 エド、たぶん普通に答えてても誤魔化せなかったと思うよ。人の弱みをえぐるのに関して、彼女以上の適任者もいないだろうから。

 

「言ってほしい?」

「いや、いい。やめてくれ」


 うん、その判断は正解だ。彼女が、いつも言いたい放題、悪態つき放題の彼女が他人に許可を取るなんて、確実に悪いことしか起きないから。

 最悪、君の精神が立ち直れなくなるかもしれない。


「じゃ、さっさと行け」

「……おう」


 引き留めたのお前だろ、と言わんばかりの顔だが、結局何も言わないままため息をついて馬を走らせようとする。

 

「あれ……?」

「どうしたの?」


 キャンプの外に目を向けたエドが硬直した。動きが止まったとかじゃなくて、完全に固まった。


「なに」

「あれ? なんか見え……あ」


 エドが凝視している方を見ると、なにかが跳んで・・・きているのがわかった。

 それは背にうっすらと輪郭の見える四角いものを背負っている。

 そのなにかが一度地面に足をつき、上に跳んだかと思うと


 ――こっちに向かって、背負っていたものを投げつけた。


「え、ちょ、えええぇぇぇぇ!?」

「エド、結界! さっさと!」

「わかってる!」


 珍しく彼女が焦っている。当たり前だ、あれは直撃したらやばいなんてものじゃすまない。

 っていうか、サイラスは何をやってるのかなあ!?


「ぎゃあああああああああ!!」


 あれ? この声ってジン君? もしかして、あの結界の中に入ってる? えーと、それはつまり。


「このままぶつかったら――」


 私が恐ろしい考えに行き当たったときにはもう手遅れだった。

 ズガン、とエドが構築した結界に同じ結界がぶつかり、派手な音を立てる。

 その衝撃に中のジン君が耐えられるはずもない。



「うおああああああああ! 死ぬかと思った! 死ぬかと思った! 何してくれてんだあの人! 殺す気かー!?」



 だというのに、彼はとても元気に叫んでいた。

 いや、死ぬかと思ったっていうか、逆になんで死んでないの? 


「さすがに衝撃無効は内部にもつけてますよ」

「ヘタレ、よくやった」

「ちょっと待て、俺の呼び方ヘタレで確定なのか!?」


 ああ、衝撃緩和か。なるほどね。

 そうでもないと、流石のサイラスもジン君が入ったままの結界を投げつけたりはしないか。私たちに関しては……まあ、何とかできると思ってのことだろうね。実際、何とかなったし。


「それはともかく、ジン君、大丈夫? 怪我はない?」

「くそっ! 命の恩人だってことはわかってるけど恨まずにはいられない! この気持ちはどうしたらいいの!? ……あれ? ルイディアさん」

「本当に大丈夫? 頭打ったりしなかった?」


 さっきの衝撃で気が動転しているのか、私が声をかけても少しの間気づかずに、自分の体を抱いて悶えるような動きをしていた。

 いろいろな意味で心配になってくるんだけど……本当に大丈夫かな?


「はい、放り投げられたときは死ぬかと思いましたけど、体は特に痛くないですね」

「そっか」

「それより、ルイディアさんがいるってことはここはキャンプですか?」

「ん? うん、そうだよ」


 この状況をそれよりって言えるんだ、と少し呆れながら私が答えると、ジン君は急にあたりを見回し始めた。そしてある咆哮を向いた瞬間、目を見開いて唖然とした表情になる。

 一体どうしたのかと思って、すぐに思い出す。


「ああ、そうだ。忘れてた。サイラスが・・・・・来てたんだっけね」


 今までのことで完全に忘れていたけど、サイラスは竜がいる方に跳んで行ったはずだ。

 つまり――


「ああ、やっぱりこうなってたか」


 そこには、サイラスが竜をぶん投げている・・・・・・・という、予想通りの光景があった。

 


次回、鬼対竜(サブタイは決まってません)

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