選択肢なんかないんだよ
三日に一回だと、私の執筆速度ではこれぐらいの長さが限界のようです
エドさんと話をしながら待つこと数十分。ようやくサイラスさんが帰ってきた。
帰還方法が空から降ってくるというスーパーマンのようなやり方で、何故か深緑色の毛の犬……というか狼を背負っていたが。
どういう状況だ。
「エド、とりあえずこいつを頼む」
「ああ、はい。……何があったんですか」
「手短に説明する。それと、今から話すことに対する質問は後でしろ」
で、珍しくまとも……間違えた、真面目な顔をしているサイラスさんの話は、その表情と反比例しておかしいものだった。
竜が出たからこの辺りにはいないはずの魔物が、むしろ相当数存在していること。報告に一切ない魔物が、おそらく何年も前から生息していたこと。しかも、オークたちが群れていて、その群れには人間と同じかそれ以上に優秀な指揮官がいるということ。
そして、サイラスさんはそれを話し終えた後、
『グリーンウルフをテイムしてから、このことを団長に報告しろ』
と言って、すぐにまた森の中に戻っていった。
珍しいことに、サイラスさんはその間一切ふざけることなく、必要最低限のことしか言わなかった。ついでに、俺たちのこともあまり見ていなかったようだ。
見ている暇がないというより、終始意図的に見ないようにしているようだったが……どうしたんだろうか。
「ジン君、ちょっといいか?」
「あ、はい。なんですか」
それほどの大事なのかと思考を巡らせていると、エドさんから声をかけられた。
手招きされたのでそばに寄る。狼はどうやら気絶していただけだったそうで、特に治療の必要もないらしい。
「そういえばテイムするんでしたっけ。でもなぜにグリーンウルフ? ゴブリンだったはずでは?」
「元々ゴブリンを選んだのも、この辺りでちょうどいい魔物がいなかったからだしね。基本的な身体能力でいえばグリーンウルフの方が優秀ではあるし、それにこいつらは性格が臆病だからテイムがやりやすいんだよ」
「なるほど。『ちょうどいい魔物』ですね」
「そういうことだな……お、目を覚ますぞ」
言われて見てみると、グリーンウルフの瞼がゆっくりと開いて――
「……!」
俺たちを見た瞬間、体を起こして思いっきり後ずさった。
「……なんかすごい怯えてますね」
「サイラスさんに気絶させられて無理矢理拉致されたんだろうなあ」
ああ、それは怖い。あんながっちりした体型の男に襲われて気絶させられて、目を覚ましたらそいつの仲間がいるとか、女の子だったら恐怖で声も出ないだろうな。あの狼の性別は知らんけど。
とりあえず会話してみるか。スライムと話せるんだから、狼と話すのなんてわけないだろう。
『俺の話してることわかるか? えーっと、グリーンウルフ』
『……なんで、言葉』
『おお、初めてちゃんと魔物と会話できた!』
リンは反応は返してくれるけど、ちゃんとした言語は話せないからな。筋肉痛で寝てる間に少し教えてみたりもしたけど、そもそも発声器官がないから声に出すのは不可能だし。
『ひとまず自己紹介といこうじゃないか。俺は黒波 陣。陣とでも呼んでくれ。そっちは?』
『……』
あ、黙られた。
怯えているのか警戒されているのか、グリーンウルフは耳を伏せたまま威嚇もせずに俺の方をじっと見てきている。ここは少し待った方がいいかな?
『……名前、何』
『「名前って何」? 名前がないのか?』
元々、一体一体に明確な呼称がない種族なのか。何体で暮らしてるのかはわからないが、それだと不便な気もするな。人間の感覚とは違うんだろうけど。
『名前っていうのは、一人一人を区別するものだな。例えば、お前の目の前にいる俺と、俺の後ろにいる人は違う人だ。だから名前も違う』
『……? ……見れば、わかる』
『ん、そうだな。でもここに三人いたら「お前」とだけ言っても誰かわからないし、どこそこにいる何とかをしてる奴って呼び方だと長ったらしいだろ? だから名前で呼ぶんだ』
『……?』
うん、やっぱり文化が違うと理解しにくいか。この様子だと惚けてるわけでもなさそうだし、名前の方は今はいいな。
それよりもテイムだ。話ができるのなら、ただ従属しろと言っても聞かなそうだが……まあ、なんとかなるだろう。なにせ俺にもこいつにも選択肢はないのだから。
『まあ、それはいい。それよりも本題に入ろう』
『……』
雰囲気が変わったのを感じたのか、グリーンウルフは警戒を強めた。別に何か危害を加えようというわけではないのだが。
『お前、俺にテイムされる気はないか?』
『……何を、言ってる』
『そのままの意味だ。もっと直接的に言うと、俺に従属しろってことだよ』
『……うるさい』
これはふざけるなって意味か。言葉がよく分かっていないのか、たまに外国語を直訳したような話し方になるな。あるいは俺の翻訳能力がそんな仕組みなのか? まあいい、特に気にすることでもない。
『さすがに従属は言いすぎたか? リンしか例を知らないもんで、テイムされた相手が何を感じるのかはわからないんだが、別に俺を王とあがめろ、なんて言うわけじゃない。対等に接してもらっても構わない』
『……違う、何で、ついていく』
『「なんでお前についていかなきゃならない」ってか? 残念ながら、今のお前に従う以外の選択肢なんかないんだよ。逃げたところでお前を捕まえた人がもう一度捕まえに来るだけだしな』
『……!』
おお、見てわかるほどに怯えてるな。そりゃあ自分を攫った奴がまた襲ってくるなんて考えたくもないだろう。臆病らしいグリーンウルフならなおのこと。
『わかったか? お前は俺にテイムされる以外の選択肢はないんだ』
『………………わかった』
ものすごく不服そうではあったが、グリーンウルフはしっかりと頷いた。うむ、賢い選択に敬意を表そう。そして喜べリン、後輩ができたぞ。
『ああそれと』
『……?』
テイムするためにグリーンウルフに近づきながら、あったかもしれない可能性の話をする。
『さすがのサイラスさん……お前を捕まえた人といえども、今から全力で森とは違うところに逃げた狼は追えないかもしれなかったんだよ』
『……!? ……うそ『人の話は最後まで聞きんさいな』……』
うん、言ったら聞いてくれる子はお兄さん好きだぞー。
『確かにサイラスさんは追えなかったかもしれないけど、まず逃げることはできなかった。なにせエドさんが結界張ってたからな』
『……?』
ああ、結界はわからなかったか。
『結界ってのは、お前を捕まえる網みたいなものだよ。だから逃げださなくてよかったな? お前が逃げ出そうとしてたら、少しだけ、乱暴な手段を取っていたかもしれないから』
『……!?』
手を頭に置いて【従属】を発動させながらそういうと、グリーンウルフは少し体を震わせた。
……まあ、これぐらい怯えさせておけば言うことも聞いてくれるだろう。罪悪感はあるが、【従属】の効果がどれぐらいのものなのか正確にわからない以上、保険を掛けておくこしたことはない。
さて、【従属】も終わったことだし。
『これからよろしく。グリーンウルフ。……名前も考えないとな』
いつまでもグリーンウルフでは面倒だ。今はしょうがないけど。
『……ああ』
グリーンウルフは何かをあきらめたようにため息をついて頷いた。
「お、テイムできたのかい?」
「ええ、快く頷いてくれましたよ」
「そうは見えなかったけど……まあ、出来たんならいいか。それじゃ、すぐに団長殿に報告に行かないとな。乗ってくれ」
「了解です」
リン(の入った麻袋)はすでにエドさんが馬に括り付けてくれている。
グリーンウルフは自分で走ってついてくるそうなので問題ない。俺はエドさんに手伝ってもらいながら馬の後ろに乗り、また襲い来る衝撃に耐えるため覚悟を決めて――
ふと、上を見た。
「……?」
「じゃあ、しっかりつかまっておけよ」
「あ、はい。あの、エドさん」
「ん?」
「今、なんかいませんでした?」
具体的には上の方に。
しかしエドさんは特に何も感じなかったらしく、何が? と言って首をかしげている。
「いや、なんでもないです。すみません」
「ああ、それじゃ改めてつかまってくれ、よっと」
エドさんが馬の腹を軽くけると、ゆっくりと馬が走り出した。だが、やはり上の方が気になる。
なので、落ちないようにエドさんにしっかりとつかまりながら、ちらっとだけ空を見る。雲はあるけど晴れてるな。
この暑ささえなければそこらの草に寝転んでみるのもいいかもしれない、などとのんきなことを考えていると、
「あれ?」
何かが一瞬、空に見えた気がした。
それは本当にかすかであり、気のせいだといわれても反論ができないほど一瞬だったのだが、
「……」
――恐ろしく、嫌な予感がした。
ちょっと終わり方が微妙だったので付け足しました。




