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魔法学校のメイドさん

作者: 枝垂もも
掲載日:2016/04/18

 メイドの朝は早い。

 まだ日の出ぬ頃に目を覚まし、身支度を始める。

 100を越す数あるメイド服の中から、今日の気分に似合った服をチョイス。

 腰まではある金の髪。ヘッドバンドでまとめれば、彼女――アリスの準備は完了だ。


「さて、今日もよい一日になりそうですね!」


 ガラス越しに、地平線の彼方から昇る朝日を眺め。瞳をきらきらと輝かせながら、アリスは、よぅし! と気合を入れた。




 朝ご飯を食べ部屋を出るのは、午前7時と数分後。

 ほうきを両手に携えて、アリスの朝の仕事が始まった。

 まずは校門前の掃き掃除。すでに枯葉は落ちきり、出てくるのは、パッと見ただけではわからない、砂埃ばかりだ。

 もちろん、そんなことで手を抜くアリスではない。校門の脇にできた、小さな蟻の巣に砂が入らないよう、慎重に、しかし手早く掃除を終わらせる。

 魔法を使えば一瞬でできる作業であっても、まごころをかけた手作業で行う。それが『ありす・くおりてぃ』だ。


 早い生徒が登校し始める――部活の朝練などである――7時30分になると、アリスは校門から昇降口までをつなぐ道へと身を移す。

 道脇にある、花壇を整えるためだ。

 ひとつひとつ、ていねいに。


「あ、メイドさーん。おはようございまーす」

「おはよう! 今日もいってらっしゃい!」


 やさしい笑顔で花壇を整え、まぶしい笑顔であいさつをする。

 そんな彼女を慕う学生は、後を絶たない。




 学生たちが登校しきり、授業が始まるのは午前9時のこと。

 その頃のアリスはといえば、部屋で優雅に午前のティータイムを楽しんでいた。

 今日の茶葉は遥か遠く、東の島国から取り寄せた、緑茶というお茶である。

 なぜだかわざわざ、その島国の伝統衣装、和服に着替え、ずずずと緑茶を飲み込んでゆく。

 至福のとき。

 そうして30分もくつろいだ彼女は、再びメイド服――先ほどとは違い、ロングスカートだ――に着替え、仕事へと向かう。


 次に向かうのは全部で5棟ある学室棟。その名のとおり、数多の学室が収まる棟だ。

 もちろん、すべての学室が同時に使われているわけではない。

 ほうき、はたき、そしてモップ。メイドの三種の神器を携えて、あいている学室から手当たりしだいに掃除を始める。

 まるで何人もいるかのように錯視する素早さ。部屋中を駆け回る時間は、わずか1分。

 彼女が通った跡には塵ひとつ残りはしないのだ。


 そうしてすべての教室の掃除が終わるのが、昼食の始まる12時30分の少し前。

 そしてそこから、一番の大物……各棟の地下に存在する巨大なホール、通称『大ホール』の掃除を始める。

 その大きさは、今までの教室の比ではない。まさしく、アリスの一日の中で、一番の大仕事だ。

 その素早さは既に視認することすら難しい。

 アリスは縦横無尽に駆け回り、ホールの端から端、さらに数十メートル上の天井に至るまで、なんと1分30秒もの時間をかけ、丁寧に掃除をする。


「――今日も絶好調ですね!」


 アリスは満足げにつぶやく。




 昼ごはんをはむはむと食べた彼女は、かわいらしいパジャマへと着替え、ふかふかのベットにもぐりこむ。

 一緒に寝るのは親友――否、心友のぬいぐるみ、うさ子。

 そうして彼女は、すやすやと、至福の時間を迎えるのだ。(本日二回目)

 小さな手でうさ子にしがみつく。いったい、どのような夢を見ているのだろうか。


「うへへへ……、肉まんそんなに食べきれないよぉ……」


 …………いったい、どのような夢を見ているのだろうか。




 彼女が起きるのは午後6時を少し過ぎてのこと。

 早めのディナーに舌鼓を打つ。

 そしてアリスは、再びメイド服に身を包み、外へと出かける。彼女の日課である。


「――あー、これ以上はちょっと見せられないんですよねー」


 困ったように、彼女は失笑を浮かべてそう言った。


「ちょっと早くてごめんなさい なんですけど、密着取材はこれで終わりでいいですかー?」


 そう言われてしまえば仕方がない。アリスは、それじゃあ、と一言つぶやき、その場から消え去った。




 いまだ謎に包まれている、我が魔法学校の美少女メイド・アリスの日常へと踏み込んだ今回だったが、誰もが知っていることを確認できただけであり、収穫は少なかった。

 これからも我々新聞部は、愛すべき謎に包まれたメイド・アリスの正体へと迫ってゆく所存である。



Wwizardryschool生徒会長及び新聞部部長及びアリス・ファンクラブ名誉会員 エース・トランプ

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