15-2 ニュース
「とにかく、どうやらレピオスは一切関係なく、脱獄犯の無差別殺人ってことで話がまとまってるらしい」
おっさんが話を元に戻してくれる。
あの脱獄犯たちは結局ドームの爆発に巻き込まれて死亡。『魔法が爆弾に引火して暴発か?!』なんてテレビで解説しているが、もしそうだとしたらとんだオマヌケさんだ。
死人に口なし。本人たちはどんなに的はずれな仮説を立てられたって、それを否定することはできない。
「他の実行犯たちは? 区役所の人とレピオスがつながってるって分かれば、そこから芋づる式にレピオスの悪事を暴けないかな」
確かこの会を主催したのはおっさんとこの部長だ。その部長を捕まえて問い詰めれば何らかの情報を得ることができるだろう。
「そうしたかったんだがな……この被害者の欄見てみろ」
携帯で出したニュースサイトの記事を見せてもらう。死亡者の欄に数多くの名前が書かれ、その横に悲惨な事故現場の写真が続いていた。身元不明な遺体も、数多く出ているらしい。
「あのとき敵方に回っていた役所の奴ら、ほとんど死んじまったらしい。爆破に巻き込まれたのか他の奴に殺されたのかは分からねぇがな」
確かあの中にはおっさんの同僚だという人もいたはずだ。
その事を問うと力なく首を左右に振られる。被害者のなかには俺が動きを封じた人たちもたくさん居た。「俺のせいで逃げ遅れたのかな」と思わずつぶやくと「もともと殺すつもりだったのだろう。あの爆破ではたとえ自由に動けようが生き延びられはしない」とシオンに頭を小突かれる。
「殺したのは、虹鉈」
西牧が強く断定してくれて、少しだけ心の刺が和らいだ気がした。
「まだ他の生存者が居ないか捜索中みたいだけどな。ひとりでも生きていて証言してくれりゃ違ってくるんだろうが……」
おっさんがテレビに視線を向けたので、同じように注目する。
現場中継では警察らしき人たちがブルーシートの塊をいくつも運び出していた。尋常じゃない爆弾の量だったもんな。近くに居た遊園地の客も何人か軽傷を負ったらしい。ドームのなかに居たらひとたまりもないだろう。
「ねぇ、近くでひき逃げ事件も起きてるよ。これ爆破から逃れて生き延びた人だったりしないよね?」
実羚が携帯を操り、別のニュースを見せてくれる。
ドームからそう離れていない場所で、一気に三人を轢き殺すひき逃げ事件が起きていた。
「たとえ爆破を逃れても別の手段で殺されている可能性が高いな。虹鉈め、なりふり構わなくなってきたな」
苦々しげに早乙女が吐き捨てる。
「でも部長とか殺しちまったら、もう不正受給者の情報を得るのは難しいんじゃねーの?」
ブラックリストの情報を得るのに一番有益な部長を殺してしまったのだ。これからもターゲットにするならば一番亡くしてはいけない人だっただろうに。
「ああ。だからまた新たな材料元を探しているかもしれないな」
新たな材料元。なんとはなしに早乙女が言った言葉に沈黙する。
それはつまり、また別の人たちが殺される可能性があるというわけで……
「くそっ……警察がいい証拠を見つけてくれりゃあいいんだがな」
生存者が出ればいいが、この様子じゃ望みは低い。
他にも設置された爆弾や関係者の話からなにか出ないだろうか。
これだけ派手にやってるんだ。いくら虹鉈が用意周到に計画していたとしても、なにかひとつくらいは……。
「聞いておきたいのだが、一体レピオスはどれだけの組織とつながっているんだ?」
警察にもつながりがあると厄介だぞ、とシオンが早乙女に問いかける。
そうだ、敵はレピオスだけじゃないんだ。刑務所での殺人は全国に渡ってる。いったいどれだけの敵がいるのか把握しておかないと身を危険に晒しかねない。
「すべては把握できていませんが、それ程多くはないはずです。ヘタに話したらどこから漏れるか分かったものじゃないですから。特に虹鉈は疑い深い性格なので、魔法粒子のことを知っている人間自体少ないはずですよ」
「警察に仲間は居ない。区役所の部長もただ不正受給者を減らしたいというだけで、粒子の正体については知らなかったはずだ」
露ちゃんと早乙女が自分の見解も交えて説明してくれる。
あの区役所の部長は深く知らないままに殺されてしまったのか。不正受給者を殺すつもりだったことは変わらないので同情はしないが。いささか哀れだ。




