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11-2 正義

 シャツの前をはだけさせ、胸元から腹筋へとなぞるように手を()わせた。

 やめろよ、筋肉つきにくい体質なの気にしてるんだからさ。解剖でもする気か?


 凶器の類は持っていないが、いざとなれば魔法でどうとでもできるので肌を(さら)すことに恐怖を感じる。


「ケガ、一応治療済みのようね」


 とん、と脇腹を指先でたたく。前にシオンにやられた場所だ。

 シャツで隠れる場所だからと油断していたが、見られていたのか。

 体育の授業のときなど裾を出しっぱなしにしているため、逆立ちしたときなどにめくれることがある。こんなことならカッコ悪いなんて言わずにしっかり裾をズボンに突っ込んどきゃよかった。


「誰にやられたの。西牧くんじゃないなら他の誰? その人が健人が殺そうとしている相手?」

「……が……ぅ」


 かろうじて舌は動くようになった。体も動かそうと頑張るが律花の触れたところからなおもビリビリとムズ(かゆ)い振動を感じる。まだ電撃を流しているのかもしれない。


「なに?」

「違、う……そんなんじゃ、ない」

「じゃあ誰? 健人。全部話して」


 (ほほ)に手をあててじっとこちらを見下ろす。その目はすべて話すまで体の硬直を解かないと雄弁に語っていた。

 だがしかし簡単にしゃべっていいものじゃない。


「話して」


 ぱさり、と律花の髪が俺の顔へと落ちる。

 そうじゃなくても頑固な彼女のことだ。話すまで本気でこの電撃を解くつもりはないだろう。


「話せない……けど、無闇矢鱈(むやみやたら)に人を殺そうとしてるわけじゃねぇよ」


 手足は動かないが首から上の感覚は戻ってきていた。彼女がそう調節したのだろう。(ほほ)をなぞる指の感触に居心地の悪さを感じながら言葉を(つむ)ぐ。


「人を殺している組織があるんだ。俺はそいつを止めたい。どんな相手かわからないから確実に倒せる魔法を練習してたんだよ」

「でもあの威力じゃ相手が死ぬわ」

「死んだって構うものか。どうせ相手は人殺しなんだから」


 彼女がレピオスの刺客である可能性も残っていたが、それならばこんなまどろっこしい聞き方はしないだろう。何よりも俺を見つめる目に心配の色が見えたので正直に答える。

 彼女は俺の回答に眉をひそめると、胸へ手をついて顔を寄せてきた。


「それで人を殺してしまったら、その人たちと健人はなにが違うの?」


 思いもよらぬ質問に驚く。


「なにが違うって……全然違うだろ。自分たちのために人を殺すのと、正義のために人を殺すのじゃ」

「正義って何」


 真正面から鋭く問い詰められて言葉に詰まる。彼女は(けわ)しい顔をしながら目を細めた。


「正義なんて人の価値観次第よ。人の命を奪う正義なんて本当にあるの?」


 なにかを言い返さなければいけないと思ったが、うまい言葉はなにも出てこなかった。

 彼女は俺の手を取り、両手で握りしめる。


「どんな極悪人でも人は必ず誰かとつながりを持っているわ。その誰かにとって健人は大切な人を殺した憎むべき罪人。どんな理由があったって人殺しは人殺しよ」


 しびれているため感覚はなかったが、(かす)かとな圧迫(あっぱく)感から彼女が強く俺の手を握りしめているということがわかる。両手でつかんでいるためその格好は祈りを(ささ)げているようにも見えた。


「人を殺したら健人は学園に居られなくなる。たとえそれが健人の信じる正義だとしても……そんなの私、嫌よ」

「律花……」


 レピオスのたくらみを止めるということだけでその後のことなんてまったく考えていなかった。人を殺しているのにバレないのだから、俺が手違いで殺してしまったとしても問題にはならないと。そうどこかで考えていた。

 でも実際はどんなに事がうまく運んだとしても、人を殺したという事実は残るわけで……


「ごめん、俺が間違ってた。悪いやつだから殺してもいいだなんて、そんなこと思っちゃダメだよな」


 どんな理由があったって人殺しは人殺しだ。殺した時点で俺はレピオスの奴らと同じになってしまう。

 実際、罪を犯した死刑囚などを殺しているんだ。それを罪だと言いたいのなら、俺が同じことをしていてはダメじゃないか。


「目ぇ冷めた。誰も死なないよう、ちゃんと魔法の制御練習する」


 俺だってこれからも学園に通いたいし、くだらない理由でブタ箱送りになんてなりたくないからな。


「……どこにも行かないで、ずっと一緒にいてくれる?」

「ああ。少なくとも馬鹿な考えだけはしないように……律花?」


 気づけば律花の両肘が俺の首横へと置かれていた。

 体に感じる重みも先ほどより多い。てか、近い。呼吸音が聞こえるほど顔が近づいていて……え。え、ちょっ……



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