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8-5 明かされる自分の能力

 いざとなったらこちらも魔法使いで対応する。

 そう方針は立てたものの、肝心の事故に居合わせなかったらアウトだ。引き続き情報を集めて、奴らの動きを探っていく。

 青柳さんに会ってみたい、と言われたので、早速明日に時間を取れないかメールした。

 この前は無様(ぶざま)に泣いて心配かけちまったからな。もう大丈夫だって、元気な姿見せねぇと。



 そうして今後の動き方を話していると、(かす)かとなノイズのあと、下校を促す放送が流れる。

 いつの間にか日はすっかり落ち、時計が六時を指そうとしていた。


 部活動は七時まで認められているが、教室の開放は六時までと決められている。そろそろ施錠を確かめに先生が回ってくる頃だ。 


 ボロボロの制服を見られたら面倒だと慌ててカバンにつっこんでいると、貸してと西牧が手を出してきた。頭に疑問符を浮かべたまま渡すと、パン、と制服を間に挟み手を打ち鳴らす。

 手を離すと破れていたカ所がキレイに修復されていた。これなら洗濯さえすればまた普通に着ることができそうだ。


「すげ、うまいもんだなー。もう魔法を使うことに抵抗ないのか?」


 高度な魔法を簡単に使ったことに驚きながら問いかける。


「松岡の言葉、響いた。魔法使って、皆の役に、立ちたい」


 おだやかに笑って言う。

 その顔はいままで見たどの表情よりも明るく見えた。シオンのおかげで西牧も悩みから解放されたみたいだ。


「ふん、最初から健人でなく俺に話していればよかったんだ。話す相手を間違えたな」

「そう、かも」

「……悪かったな」


 素直に西牧がうなずいたので、半眼になりながら(うめ)く。どうせ俺は頼りになんねぇよ。


 じとりと恨みがましくふたりを見つめていると、その様子がおかしかったのか。西牧とシオンが同時に吹き出した。

 大きな口を開け、声を出して笑い合う。こいつらがこんなふうに笑うのを初めて見た。


 最初はむっとしていたが、つられて俺も悪態をつきながら笑い出す。

 不思議だ。こうして笑っているとなんとかなりそうな気になってくる。

 さっきまでの重苦しい空気が一気に(はじ)き飛ばされたような気がした。



 施錠を確かめ、教室の電気を消す。昇降口に向かう途中、誰もいない教室を見つけると西牧がその都度中を確認して電気を消していった。それを茶化(ちゃか)しながらも一緒になって鍵の施錠などを手伝う。

 他に誰もいない学校というのは薄気味悪かったが、三人で歩きながら話しているとワクワクして楽しかった。


「松岡。松岡も、魔法力、見える?」


 西牧とシオンも少しずつ打ち解けてきたのか。だんだん会話が多くなってくる。


「見える? どういうことだ」


 なんのことか分からない、といった風に首を(かし)げる。いままでずっとシオンも見えるという前提で会話していたので、慌てて問いかけた。


「シオン、前に人の魔法力がわかるって言ってたよな?」

「ああ。だが目で見えるのではない。意識を集中すると感覚で分かるんだ」


 凝縮の作業のように、集中して初めて相手の魔法力が分かるのだという。その形式が普通で、西牧のように魔法力が目で見えるというのは聞いたことがないらしい。やっぱり西牧のって特別なのかぁ。

 魔法力が分かる人間自体数が少ないので、貴重な存在だろうとシオンが推測する。


「入学試験の魔法力診断担当になったら重宝されるぞ。あの審査が一番時間がかかるからな」


 ひとりひとり意識を集中しなくてもぱっと見で判別できる西牧なら、あっという間に入学希望者をふるいにかけられるだろう。


 そういった意味では西牧の将来は安泰だ。本人はこの特技をあまり公にしたくないと考えているみたいだけど。

 その能力のおかげで、西牧もシオンも将来の就職先では困らないらしい。魔法を使う企業の面接官には必ず魔法力を診断する担当が必要だからだ。

 数が足りず、面接のときだけ呼び出される能力者もいるらしいし。いいなぁ、俺も人の魔法力が分かったらいろいろ楽だったろうになぁ。


「健人。入学前から、魔法使えた?」


 西牧が下駄(げた)箱から靴を取り出しつつ聞いてくる。


「そうだけど。何で?」

「だからか。なぜ入学できたのかずっと不思議だったんだ」


 なるほどそれでか、とふたりとも腕を組みながら納得する。え、何。なんだよその言い方、すっげ気になるじゃん。


「中学の文化祭のときにどっかのお偉い人が来てさ。『キミは魔法の才能がある』ってみんなの前で言われて。んで、ドロップになりたくねぇからネットで調べたりなんだりしながら入学決まるまで自主練してたんだけど……何。なんかあんの?」


 魔法は魔法学校へ入ってから学ぶのが主流だが、周りの期待がすさまじかった。

 魔法を教えてくれそうな人がひとりもいなく、姉ちゃんとネットでいろいろ調べながら苦労したもんだ。

 最初を独学でやってたから、俺の魔法は変な癖がついている、とか?


「おまえくらいの魔法力は特性ありと診断しない。皆少なからず魔法力は持っているものだからな」


 シオンが口にした言葉は、まったく想像すらしないものだった。


「え、俺の魔法力ってどんくらいなの」


 西牧が明らかに言いにくいといった目を浮かべて言いよどむ。代わりにシオンがしぶしぶながら答えてくれた。


「おそらく……学年で最下位だろうな」


 はぁ?!

 あまりのことに頭が真っ白になる。

 おい、誰だよ俺に「魔法の才能がある」って言った奴。才能あるって言いきるくらいだったらフツー、学年でも上位くらいの魔法力を持ってたりするもんじゃねぇの?


 パニックに陥る俺を気の毒そうに見つめながら、西牧とシオンが続ける。


「その魔法力、魔法ダメでも、ドロップ、じゃない。一般人」

「逆に俺は魔法を使えることに驚いたぞ。普通ならば入学試験には受からないだろうが、魔法が使えたせいで通さざる得なかったのだろうな」


 なんだよ、じゃあ俺はあんな必死こいて頑張らなくても良かったってわけか?! ドロップと呼ばれたくなくて視力を落とすまで勉強したというのに!

 むきー、と叫びながら頭を抱え地団駄(じだんだ)を踏む。校門の前は薄暗く誰も居ないため、俺は衝動のままに身をよじり、悔しがった。


「だからこそ感心しているのだ。この魔法力であれだけの魔法が扱えることに。並大抵の努力ではできまい」


 俺の憤りを察知したのか、シオンがフォローに回ってくれる。それを見て西牧までが俺を慰めるように肩にポンと手をおいた。


「コントロール下手、当然。魔法力足りない、難しい」

「だがおまえ、授業だと道具の使用が認められていないから評価されないが、道具を使っていいのならば特進科以上の魔法効果を出すことができるだろう」


 言われて練習場での出来事を思い出す。早く結果が欲しいと焦った俺は、身近にあるさまざまな道具を用いることが多かった。

 おっさんに協力するために使った紙飛行機の件もそうだ。単純にかまいたちを起こして枝を切るのはつらいが、紙飛行機を使えば羽根の硬化と少しの風をコントロールするだけで済む。

 俺はそれを単なる逃げだと過小評価していたが、シオンは初めて見せたときからずっと俺の魔法を褒めてくれていた。


「その場の条件、うまく使う。みんな、やること」


 西牧が(やわ)らかくほほえむ。安心していい。言外にそう言っていた。


「おまえは立派な魔法使いだ」


 とん、と俺の胸を軽くたたきながらシオンが言う。

 コイツに保証されると心強い。じんわりと温かい熱が広がっていく感覚がした。


「……サンキュ」


 触れられたところをギュッと手で握りこむ。

 一瞬腐りそうになったけれど、才能があるこのふたりに認められてるんだ。たとえ魔法力が少なくても、ふたりに恥じないよう努力し続けよう。


「どうしてもコントロールの練習がしたいというのなら、今度俺が魔法粒子を集めるところまでやってやる。粒子量が通常より多ければ、おまえの負担も減るだろう」


 魔法力が少ない人間が苦労する『凝縮』を代わりに行い、おいしいところだけ使わせてくれるのだ。


「なんか椀子(わんこ)そばみたいだな」

「的を射た例えをするじゃないか」


 ふ、と息を吐いて笑う。この例えはシオンの気に召したようだ。

 新たな練習法や可能性に胸がワクワクしてくる。握っていた手を解き、勢いよく顔を上げた。


 よっしゃ! こうしていろいろ協力してくれるんだ。コントロールヘタなことばっか気にしてないで、自分の長所を伸ばす練習に切り替えるぞ!

 俺なりに工夫してこのふたりに負けないくらいの魔法を使えるようになってやる!


「ちなみに魔法大学の研究室は、入り口に魔法力を確認する警備員が立っているらしい。顔を覚えてもらうまで、都度魔法を披露する必要があるだろうな」

「健人見て、魔法使える、思えない」

「……もうやめてもらっていい? 魔法勉強する気なくなっちゃうからさ……」


 一応大学に進む気はないから大丈夫っちゃ大丈夫なのだが……。

 警備員に止められるほど俺の魔法力ってないのかよ。ドロップになるのをあんなに怖がっていたというのに。

 あのお偉いさんはなにを思って俺に魔法の才能があると言ったのか、小一時間問い詰めたい。




 なんとなく離れがたくて、いろいろ話しながら校門前に留まる。三人で会話したのは初めてだったが、まるで前から友人だったかのように話が弾んでいた。


「魔法力がない健人が魔法を使えるのにも驚いたが、西牧ほどの魔法力の持ち主が普通科で平然としていることにも驚いたぞ。入学時に特進科を(すす)められなかったのか?」

(すす)められた。でも普通科、行きたかった、から。魔法力も、信じてもらえ、なかった」


 魔法力判定をした魔法使いは、ケタ違いの魔法力を主張したが、「そんな人間がいるわけない」と他の試験官が信じてくれなかったのだという。結果西牧も魔法が使えることを見せたので合格したらしい。

 ってか、いるわけないって言われる魔法力って一体どんだけだよ。


「そんなに西牧の魔法力ってつえーの?」

「俺がいままで見てきたなかでは一番だな。正直こんな奴がいるのかと恐怖さえ抱いた」

「そんなに?」


 見えない俺にはさっぱり分からないが。どうやらとんでもない魔法力の持ち主らしい。


「松岡も、相当。小さい頃から、すごいって、うわさ」

「まぁ、小学校の頃からさまざまな大会にゲストとして呼ばれていたな」


 ふん、と鼻を鳴らしながら自慢げに言う。

 恐ろしいほど魔法力が高いふたりに挟まれてる一般人レベルの俺って……。腐りそうになるのを必至でこらえる。


「でも、俺より魔法力、もってる子、居た。小さいころの、友達」


 西牧の言葉にシオンが目を丸くして驚く。

 さらに上がいんのかよ。神様はもうちょっと平等にパラメーターを振り分けたほうがいいと思う。このままじゃ俺があまりにも不憫(ふびん)だ。


「魔法学校に、いると、思った。のに……」


 同学年の人をチェックしたが、自分より上の魔法力の持ち主は見当たらなかったらしい。よほど会いたいのか(さみ)しそうに瞳を陰らせる。


「案外学年が違うんじゃねぇの。名前は? 先生に聞いてみたらわかるかもよ」


 たとえ他の魔法学園に行っていたとしても、それだけ魔法力が強いなら西牧のように隠れていないかぎり名が売れているだろう。他校と交流が深い先生に聞けば分かるかもしれない。

 学年一と言われたシオンを上回る西牧。それをさらに上回る相手だなんて、どんなやつなのか単純に見てみたいという好奇心もあった。


「タクヤ。えっと、名字、は……」


 つい最近聞いたのと同じ名前に体がこわばる。

 俺の様子には気づかず、西牧はやわらかな笑みを浮かべて続けた。


「早乙女。早乙女、拓哉。俺と同じくらいの年、だった」



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