5-2 疑惑
「おっさんのほうは? あれからなにか新しい情報入った?」
飲み物が終わりそうだったので、おっさんの分まで一緒に追加注文をする。
俺が説明している間も、むしゃむしゃと食事を進めていた。いい食べっぷりだ。
「直接関係あるかは分からねぇんだけどな。前に話聞いたとき、刑務所から殺人犯をスカウトしたとか言ってたろ?」
俺が追われる原因となった、区役所部長たちの会話だ。
「うん。たしか……なんとか事件の大量殺人犯をスカウトしたって言ってた」
「そのスカウトっていう言い方が気になってな。まさか脱獄犯でも出たのかと刑務所の情報を漁っていたら、変なことに気がついてよ」
へんなこと? とオウム返しに問う。おっさんは豚汁に落としていた視線を俺へと向け、きっぱりと言い放った。
「ここ数年、受刑者の数が減少してる。……不自然なほどにな」
ごくん、と喉が鳴る。
依然ニュースでは凶悪犯罪を取り上げているし、犯罪率が減ったなんていう話は聞いたことがない。ということは。
「まさか……ブラックリストの人たちだけじゃなく、受刑者の人たちも殺されてるとか?」
「わからねぇ。ただ、数十年前までは受刑者の数が毎年右肩上がりだったのに、一部の刑務所だけ、ここ数年で急激に減っている」
年齢や刑期、初犯か再犯かによって、移送される刑務所というのはおおまかに決まっているという。
国が発表している統計データを分析した表を見せてくれる。
刑期が長い人を集めた刑務所、あと持病がある人を集めた刑務所の受刑者数が数年前から減少していた。他の刑務所は増え続けているのにも関わらず、だ。
「この刑務所、下がり方異常じゃない?」
「高齢者が多い場所らしいな。死亡退所の数値も大きい。まぁ、受刑者の高齢化問題というのもあるんだろうが……その割合が、明らかに変だ」
「これ、さ……一体いつから始まってたんだよ……」
連続殺人、といっても、せいぜい一年くらいしか行われてないと思っていた。しかし、この統計データを見る限り。10年くらい前から行われていそうだ。
体を寒気が走る。
なんか俺、相当危ないことを調べようとしていないか?
震えそうになるのを抑えるため、腕を組み体を抱きしめる。
ブラックリストの人たちに犯罪者。報道されることなくひっそりと消されていく人たち。
事件の大きさに愕然とする。
けれどもおっさんは、「まだ分かんねぇぞ」と真剣な声でさっきまでの仮説を翻した。
「連続殺人と決めつけるのは早え。なんせ刑務所だからな。なかで人を殺すのは不可能なはずだ」
受刑者は常に刑務官に監視され、脱獄や暴力行為などできないようになっている。
監視カメラの数も多く、それらすべてをかいくぐって外部の人間が殺しを行うのは不可能だろう、と。
「刑務官が殺人犯って可能性は?」
「ねぇだろうな。複数の刑務所で起きているし、不審な点があったらそれこそ受刑者のほうがほっとかねぇはずだ」
ただの偶然か、それともなにか関連があるのか。
いまの段階では判断できない、と背もたれに体を預けて瞑目する。
「それに、もしうちの部長が犯人だってんなら、受刑者を殺す動機が分からねぇ。ブラックリストの連中を減らす以外、なんのメリットもないからな」
ただ、無関係にしては数値がおかしすぎるから確認したかっただけだ、と話を締められる。
受刑者についてなにか話してたか? と聞かれるが、犯罪者をスカウトしたという情報以外聞いていなかった。
できれば、ただの偶然であって欲しい。
数値によると、ひとつの刑務所で年間40人近くが殺されていることになってしまう。
そんな大量殺人がいままで暴かれることなく行われてきたのだとしたら、自分じゃとても太刀打ちできなさそうだ。




