4-1 西牧の秘密
西牧が教えてくれた弁当屋はかなりの当たりだった。
栄養バランスも取れているし、何よりもうまい。姉ちゃんにもおみやげで買っていったら、夕飯後なのにバクバクと箸を進めていた。
すっかりハマり、翌日も購入する。
それを見て西牧の無表情な口元がうっすら笑みの形を刻んだ。自分のおすすめが他人に気に入られるのってうれしいもんな。
今日もシオンは委員会で忙しかったので、西牧と昼を一緒にする。
シオンは西牧のこと、大分敵対視しているし。もしかしたら俺が話しているのを嫌がるかもしれないな。委員会で昼集まるのもそろそろ終わりだろう。
本当はもっと時間をかけようと思ったが、大分心を許してくれている気がするし。
思い切って、仲良くなってから聞くつもりだった質問を投げかけてみる。
「なぁ、魔法あんまり使おうとしないのって何でだ? クラスで目立ちたくないとか?」
シオンの勘違いかもしれないが聞いておいて損はない。違ったら違ったで笑ってすませばいいだけの話だ。
「……な、に?」
「いやさ、シオンより魔法力高いのに実力隠してんのは何でかなーって」
違っていたならシオンが勝手にライバル視していることを伝えて誤解を解けばいい。そうすりゃ俺が西牧と話してても面倒くさいことにならずにすむだろう。
「まさか、健人も見える?」
「へ?」
てっきり否定の言葉が来ると思っていたので反応がおかしくなる。
え、いま認めた? 見えるってなに。
しばし混乱して言葉を失っていると、じれたように先を促してくる。
「健人も、魔法力……見える?」
「あ、いや俺じゃなくて。シオンがそーゆーの分かるらしくてさ」
松岡も……と口元に手を当てて考え込む。えーと、いまの話の流れからすっと。
「西牧も人の魔法力がわかるってことか?」
人の魔法力が分かる人間というのがこの世にどのくらいいるのか分からない。でもシオンが人に話したがらないことを考えると、意外と皆隠してるだけで多いんだろうか。
こくりとうなずいた後で、目を丸くしたまま独り言のように西牧がつぶやく。
「松岡、魔法力高い。知ってた。でも、見える……知らなかった」
「じゃあ実技の授業も手を抜いていたって本当?」
「抜いてない。粒子の消費、少なく、してるだけ」
「何で消費を少なくしようとしてんだ?」
矢継ぎ早に質問を投げかける。
魔法学校は昨日見たトラックで定期的に粒子を補充し、常に魔法粒子の多い状態を保っている。気兼ねせず使って構わないはずだ。魔法自体あまり使いたがらないように感じたしな。
「健人、口堅い、か?」
「うーん、あまり自信はないかなー」
「なら、駄目」
「ああウソ! 絶対誰にも言わないから教えて!」
意味深に言われてからお預けだなんて、そんなの気になりすぎるだろ!
「なぁー頼むよー。このとおり! な?」
話を打ち切ろうとする西牧に対してしつこく食い下がる。
こう見えて俺は好奇心の固まりなんだ。面白そうなことだったらよけい知らずにはいられない。
なおも渋る西牧にしつこいくらいに言い寄る。ちょっとやり過ぎかなと自分で思ってしまうくらいに。うざいことこの上ない。
しばらくなーなーなーなー付きまとっていると、俺の執念にあきれたのか食事を進められないことに苛立ったのか。箸を置き、ひとつ深いため息をついた。あ、やべ。怒られるかな。
「他言、無用。約束、できる?」
どうやら根負けしたらしい。
笑顔になりそうになるのをこらえ、真剣な顔で誓う。
口の軽い自覚がある俺だけど、寡黙な西牧がなんとしてでも隠し通そうとしたことだからな。これだけは約束を守らなくては駄目だろう。
誰にも話さないと固く誓うと、場所を移そうと提案してくる。
教室じゃ話せない内容なのか。どんだけ重い話なんだ。
俺は好奇心で胸を高鳴らせながら弁当をまとめると、西牧の後ろについて屋上へと上がっていった。