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こんな勇者は嫌だ!!

作者: 安西雄治

※短編の課題文より


ついに魔王と対峙した勇者が、

魔王に自分側についたら世界の半分をやろうともちかけられて勇者が取った行動とは……?

 世界の果てにある、不気味な廃城。人々が『魔王城』と忌み嫌う、その城の最深部に奴はいた。奴こそが、この城の主。世界の混沌たる象徴、魔を統べる存在。“魔王”である。

 俺は魔王に、拍手で出迎えられた。

「おお、光の勇者よ! 数々の困難を退け、よくここまで辿り着いてくれた!!」

 まるでここに来たことを祝福するような口ぶりに、拍子抜けさせられる。

「突然だが、お前は本当に魔王なのか?」

「そうだが? なんなら“魔王の証”でも見せようか?」

「……いや、いい」

 目の前にいる魔王を自称する奴は、あまりにも魔王らしからぬいでたちをしていた。服装こそ全身黒ずくめでそれらしく着飾っているが、悪の化身というか、それらしいオーラとか、威厳のようなものを何も感じないのだ。極めつけは顔だった。この魔王は、どこにでもいそうな人生に疲れた中年おやじの姿そのものだった。魔王というぐらいだから、もっと悪人ヅラかと思っていたが、それはただの先入観だったのだと改めて思い知らされた。

 そんな疑問を、俺の頭に住む“導きの声”がかき消してくれた。『この人こそが魔王』だと言ってくれた。

「お前に世界の半分をやろう!! 私と一緒に、世界を恐怖に包み込み、全人類をひざまずかせて支配しよう!!私の闇の力と、お前の光の力が合わされば、もはやこの世界に敵はない!!」

 魔王は俺を闇の道へ口説き落としたいようだ。光の勇者として覚醒した俺の存在は、それだけ魅力的らしかった。世界を放浪して、魔王打倒をスローガンに十分に蓄えてきたこの力を、なんとかして我が手中に収めたい……。そんな魔王の想いが、痛々しいまでに伝わってくる。

「素敵なお誘い、せっかくですけどお断りします」

「お前と私が力を合わせれば、世界を牛耳るなんて造作も無いことなのだぞ!!」

「ちがうだろ」

「何?」

「……世界はいらない。なんにもいらない」

 俺は魔王のいざないをさえぎって、ひたすら否定を繰り返した。そして、こう言い返した。

「どうして、世界を壊してくれなかったんです? 貴方がさっさと壊してくれたら、俺がわざわざこんなことをしなくても済んだのに」

 俺は魔王の目を見た。すると魔王は目をそらした。

「そこで思ったんです。……壊さなかったんじゃなくて、壊せなかったんじゃないかって」

「違う!!」

 否定するが、明らかに魔王は動揺している。落ち着きのない挙動と自信なくキョロキョロ視線の定まらない目がそれをあらわしていた。もっとも俺自身、魔王と対峙するまで、確信の持てる推理ではなかったのだが。

「……最初、この城の最上階に行ったんです。するといかにも荘厳で仰々しい玉座の間がありましたよ。でも主はいない。玉座の周りを調べたら、これまたいかにもなボタンがある。押したら、玉座の後ろの床が開いて、下へ降りる隠し階段の入り口が出てきた」

 あの時は、おとぎ話に出てくるベタな仕掛けが本当にあるなんて……と、バカバカしく感じた。

「今度は狭苦しく埃っぽい通路を通って、ひたすら下へ下への大移動。一体ここが地下何階かわからないが、ようやく辿り着いた“魔王の部屋”は、狭くて息苦しくて、まるで外敵から身を守るために地下へ潜伏しているみたいだ」

 魔王、改め、魔王?は、言い返す言葉が出てこないのかずっと固まったままだ。

「もう貴方の持つ闇の力とやらは衰退していて、とっくに世界征服どころじゃなくなっていたのでは? それで、最初っからここに到達できる光の勇者と手を組むつもりだった。違いますか?」

押し黙ったままの魔王?の、重たい口が開いた。

「……ああ、その通りだ。 今の私は何にもできない名ばかり魔王だ! だからどうしたって言うんだ? お前は“勇者としての使命”とやらをまっとうしにきたのか? なら早くこの私を殺せばいい!!」

 覚悟を決めて居直ってしまった魔王?に、俺はとどめを刺すことにした。模範的な勇者なら、ここで普通に殺して終わりなのだろう。しかし俺は、由緒正しき立派な勇者ではない。死よりも残酷な真相を打ち明けてやった。

「……俺はね、可愛い魔王さん。こんなクソッタレな世界が大嫌いだった。勇者にもなりたくてなったわけじゃない。貴方は、私が光の勇者だから、魔王の口車に乗らなかったと思っているんでしょうが、自らの意志で断ったんです」

「ど、どういうことだ!?」

「俺は勇者やる前は、その日暮らしの貧乏乞食で、ゴミ箱の残飯を漁って空腹を食いつなぐような生活をしてました。ある日、いつものようにゴミ捨て場を歩いていたら、突然、頭に声が響いてきたんです。俺はそれを“導きの声”と命名してますがね……その“声”に言われるまま動いて『勇者の証』を見つけた。その後は、あっという間に光の勇者と担がれていった……というわけです」

 この時味わった、世間の手のひら返した理不尽な反応を、一瞬足りとも忘れたことはない。底辺の生活をしていた時、誰にも見向きもされないどころか、石を投げられたり、人としての扱いを受けたことはなかった。それが、“勇者の証”を手に入れた途端、人々の注目と賞賛の洗礼を浴びた。

 この不条理な仕打ちを、噛み締めながら俺は続けた。

「それから勇者として世界救済の旅が始まりました。人間の業の罪深さを味わいながら。じっくりと、一つ一つを丁寧に。壊していきましたよ。一つ残らず救ってやった。壊れかけた人間たち。それを苦しみから解放してやった。あとは魔王。貴方ただ一人」

 俺は剣を抜き、ゆっくりと魔王へとにじり寄った。一歩、また一歩。

「貴様!! まさかこの、私まで!!」

「すぐ楽にして差し上げます」

 抑揚のない口調で淡々と言った。

「ぐわあああああああああァァァぁぁぁああぁぁ………」

 壊れかけているなら、壊してしまえばいい。人も世界も。全部壊して、それからまた始めればいい。勇者としてやるべきことを成し遂げた瞬間、全身の力が抜け、その場に倒れこんだ。そして薄れゆく意識の中で、自分という存在が消え去ろうとしていることを感じ取っていた。

時間がかかりすぎた上に、思ったようにいきませんでした。

つぎ頑張りたいと思います。

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