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大分描写を省いている部分があります
すみません<m(__)m>
保存用にとられていた新聞紙が一部切り取られてあったことは瞬く間に学校中に広まった。先生は内密にしておきたかったらしいが。
その先生がほかの先生や職員たちに色々と事情説明してくれていたおかげで俺に疑いがかかることはなかった。
ホームルームにもその話題は取り上げられ、担任はテンプレのように誰が切り取ったのかをしつこく聞く。当然、誰一人として手を上げることはなく、何もなかったかのようにホームルームが終わる。
ほとんどの生徒にとっては、切り取られたということだけが引っかかり、対して興味はなさそうだった。特に三年生にとっては、夏が近いため部活に対する熱のほうが圧倒的に勝り気にもしていない様子だ。
そう言う自分も興味がわくことはなく、呆けながらその話を聞いていた。
それからしばらくたっても、なぜか麻耶とともに下校していた。
帰ろうとしたときに限って、おどおどとした様子で声をかけてくる。断る理由も思いつかないためその提案に応えていた。
帰宅中の今にも麻耶は俺の隣に並び、会話を途切れさせまいと話しかけてくる。
「で、ですねっ。それで……」
話のネタが尽きたのか、同じことを何度も聞かされているような気がしている。
ただ、学校内を歩いている時や、近くにほかの人がいると話すのをやめて、俺にすがり寄ってくる。
「対人恐怖症なの?」なんてことを聞くと、決まって
「……いろいろあるんです。いろいろ」としか返されず、話題を変えられてしまう。
「なんで俺は大丈夫なの? ほかの人みんなダメなのに」
「……それは……。その、あの……」
麻耶は声を詰まらせた上に、足を止める。
「……あ。……身に覚えがあったといいますか、その、昔遊んでいた気がして……」
「でも、覚えてないって」
「そ、そこまで物忘れがひどいわけじゃありません。ちゃんと……。いえ、何でも、ないです」
「そう」
帰り道の途中で、俺たちはコンビニに立ち寄った。
「ちょっと買いたいものあるから寄っていい?」
「あ、はい。私、外で待ってますね」
どうして中に入らないんだろうと思ったが、店内を見てみると意外と混雑していた。
「なるほど。じゃあすぐ戻ってくるから」
「はい」
麻耶の返事を背に、俺は店内で買い物を済ませた。いざ外に出ようと思った時、麻耶が4人の男に囲まれていた。
その男たちの格好はちゃらちゃらしていて、まともな人間だとは思えなかった。
はあと溜息をつき、俺はやつらの相手をすることにした。
「ごみ共。邪魔だ、どけ」
そう声をかけると、予想通り食いついてくる。顔をしかめ殺気を俺に向ける。あーだこーだと厳つい雰囲気を無駄に漂わせようとした。
「邪魔だといっているだろ。ああそうか。そんなことすら聞けないゴミだもんな。すまないな」
調子に乗ったやつらは胸ぐらをつかんで、こぶしを振り上げた。
「調子に乗るなよ。ごみのくせに」
適当に仕返しをしてやると簡単にごみは地に伏せた。
「ち、変な液つけんなよ」
倒れているやつをあしらうと、麻耶から止められる。先ほどまで怯えて震えていたようだが、もうおさまっているようだった。
「やりすぎですよ。血だらけじゃないですか」
「それは情け? ごみに?」
「いいえ。それ以上やると、制服が汚れるって意味です」
「それもそうだね」
俺たちは普通に帰宅路についてそのまま家へと帰った。
その次の日。学校に向かう途中で麻耶と遭遇した。いつもなら俺が学校についているころにはもうすでに教室にいる。
「あれ、珍しく遅いんだね」
「あ、はい。初めてですね。一緒に登校するの。それに、こうちゃんから声をかけてくれたの」
「あれ、そうだっけ?」
「そうですよ。うれしいです」
ニコッと笑顔を見せる麻耶はいつもと同じような雰囲気だった。
「あの後大丈夫だった?」
「あの後って?」
「だってほら、汚いの見たし。気分悪くなったんじゃないかなって」
「大丈夫でしたよ。あれくらい、慣れちゃってます」
「慣れてる?」
「あ……。気にしないでください」
「そう言うなら」
追及したところで、何か得られるような気はしていないし、露骨に避けているあちら側で何があったのかの内容に触れてしまうだろう。
「こうちゃんって意外と強いんですね。びっくりしました」
「ごみなんかに負けるわけないよ」
「そ、そうですか」
なぜか戸惑う麻耶。
「小さい頃、何やっていたとかはないんですか? 誰かに教えてもらったとか」
そう言われて、俺は頭を抱えた。
「いや、覚えてないなあ。どうしてなんだろ」
「……そうですか」
「どうして残念そうなの?」
「えっ。あ、いや、そんなことないですよ?」
麻耶はパタパタと手を振る。
「変なやつ」
「う、うるさいですよ」
むすっと膨れた麻耶はぷいとそっぽを向いた。
その日の放課後。いつものように麻耶が声をかけてくるとばかり踏んでいたが、今日は声をかけられなかった。ホームルームが終わると、一番に教室を出たようだ。
珍しいこともあるものだと、俺はそこまで気に留めてなかった。
いざ学校から出ようというときに麻耶らしき後姿が、金髪のやつとともに体育館裏に向かう様子が見受けられた。
「あれ、あいつ大丈夫なのかな」
そんなことを思いつつ、学校を出ようとしたが、体育館裏から大きな物音が耳にはいり、心配になって俺はその方へ足を向けた。
よく見たら、金髪野郎は昨日からんできたごみによく似ていた。
まさか。そんな思いで麻耶の後を付けてみると、予想通り昨日のごみ共がそろっていた。麻耶は遠くから見ても震えているのがわかり、どうしたものかと少しばかり頭を悩ませていると、ごみ共は麻耶に触れようと手を伸ばし始めていた。
ここからでは間に合わない。急ぎ足で向かおうと足を踏み出す。
触れられたとき、麻耶は人が変わったような動きを見せ、触れたごみを地面に叩きつけた。これなら他のごみもたやすくできると思ったが、それから麻耶は抵抗をしなくなった。
さすがにまずいと判断した俺は、駆け寄り相手をしてやった。
すぐには体を動かせない程度の攻撃をした後、麻耶の手を引いてその場から急いで離れた。
「どうしたの? 急に抵抗しなくなっちゃって」
「あ……。あぁ……」
麻耶は声にならない声を発し、焦点が定まっていない。
「……また、また、やってしまった……。あぁ……」
自分の震える手を見つめ崩れ落ちる。
助けたのはいいものの、これからどうしようか。
ようやく落ち着きを取り戻したようで、俺は軽く声をかけることにした。
「大丈夫?」
「……え、あ、はい。大丈夫です」
いまだに震えは止まってはいない。
「で、どうして急に抵抗しなくなったの?」
「……だって、また……殺しちゃうかもって……思って……」
辛そうな表情で、かすれ気味の声を漏らす麻耶。
「とにかく、帰ろう。これ以上ここにいたら面倒事が起きる」
俺は無理に麻耶の手を引いて、学校から出た。