8 鈍感
甘い恋愛要素ですかね?
5月中旬。ブルルルと言う音が青い車になり響き、その上からしなやかな薄水色と真っ赤な髪がなびく。
山道へと向かっているため、ポツポツと住宅が消えてゆく。
そんな風景なんかに目もくれず、薄水色の髪の少女は華奢な自分の指を折り曲げていく。
「ひーふー、みー…アメリカ滞在五年か、十二歳。てことは小学6年だねー」
「そうだな。もう十二か…年月は早いな。お前は変わらないけどな」
ははっ、と笑い混じりに茶化す涼くん。私は頬を膨らました。彼はその顔を見て吹き出すと懐かしそうに言った。
「まぁ、少しくらいは進歩したんじゃねぇの」
「シティガールと呼んでくれても構わないよ!」
「お前は英語が話せねぇだろうが」
「発音は苦手だけど、何となくジェスチャーだけで、言いたい事が通じる位にはなったよ。筆記は得意なんだけど、話すとなるとやはり難しいんだよね」
「お前の努力の方向性には俺も屈伏するな」
ペラリと細い指で雑誌のページを捲る忌まわしき赤薔薇涼。彼が持っているのは、英語の雑誌。そんな容姿端麗、頭の良い涼くんに何回も教えて貰いましたが
「覚えた方がいいのは、『ごめんなさい。あなたを傷付ける気持ちはなかったんだ』とかだな」
「アイムソーリ。ディドゥント…」
「ごめん。俺が悪かった」
涼くんにも匙を投げられるというあり様である。才能が無いわけでもないしやる気もあるんだけど、いまいちのびしろが良くない。何故だ、何故なのだ。
そして、一番の思い出は、涼くんの看病ですね。
あの夜、何があったか分からないが、涼くんは尋常じゃないくらい怯えていた。それをただひたすら看病していたのだ。
パチィンと頬を叩き気分切り替える。今回は、いい力加減で出来た。
「何してんだ…」
「そして今日は、待ちに待ったハリウッド見学とモデル撮影だ! たのしみじゃ、しぃ!」
思わず握りこぶしを顔の前につくりガッツポーズ。
ここに来て仕事がなくて五年は、暇があっては観光していた。
「仕方ないじゃん。今まで日本学校でお友逹ときゃいきゃい、ではなく涼ファンクラブに目を付けられるがか嫌だったんだもん。楽しくないし、ひっそりと孤独に本を読んでたから。本は友達、ははは…ぼっちには慣れたよ」
「そういえば、お前は本ばっかり読んでたな。…そのおかげで男子が近づかないから良かったんだけど」
「それ、どういうこと。私に友達ができなくていいと」
私は彼の一言にぷちんときた。ぼっちとか嫌なのは当たり前でしょ。
「いや、そこまで言ってないからな」
「あっそ」
涼君は溜め息をつくと、雑誌に目を戻した。我ながら大人げなかったかな。
二つ名は、孤高の王女。実はこのあだ名、痛くてわりと好きだったのだ。
のふふふ、楽しかったなぁ。お土産もたくさん買ったし。あれ…お菓子って5年も持つか…。不安になってきた。もし腐ってたら、調合とかして、バレンタインチョコにでも混ぜたろうか。どうせ、いっぱい貰うだろうしロシアンルーレットっぽい感じで。
そう思うと楽しみである。ふふん、モテる奴には報復じゃ。
「楽しみ、ふふ」
「あぁ…楽しみだな」
くすっと涼くんが笑う。
分かります。私も楽しみですな。幸せな乙女の戦争、バレンタインに食あたりをおこす、不運な恋愛勝ち組を見るのは。
…。
「………………え! わっわらっ笑った?」
私は口を押さえる、顔全体が熱くなるのが分かる。
ここ五年で初めて見た…いつもムスッとしている。
格好いい…思わず見惚れた。これが、ギャップ萌えと言うやつなのか。
つくづく感動する恋愛勝ち組だ。こうやって女子をおとすんだよね。多分無意識だろうから、質が悪い。恋愛勝ち組でも、涼くんに罪はないし、罠の試作品を食べて貰おうかな。私も流石に、それを食べたくはない。
彼は腕をくみ眉間に皺をよせて言う。
「俺だって笑うし」
「ごめんごめん。見惚れたんだ」
「み…ほれる?」
私が適当に出した言葉に反応して、目を見開く。時間差で赤くなっていった。
はっ、ずるいよな照れてても、綺麗だと。
やっぱり、品格があるのだろうか。だとしたら、私には絶対無理だ。品だけは、庶民癖があるのだよ。
うん。でもまぁ、仕事頑張る涼くんは、好きだな。堅実はいい男の第一条件だ。彼が攻略対象の時点で私にはさらさら関係ないのだけど。
「うん…だって仕事に一生懸命な、涼くんって格好いいと思う…ぞ」
自分で言ってて恥ずかしくなる。照れている場合ではないのに、だ。最後聞こえたか不安になる。格好いいとは、私の口から出ていいのかが照れる一番の要因だ。
「そうか………お前も凄いとおも…う…」
私と逆の方を向いて頬杖をつきながら言う。車内なので、覗き込むことは不可能だ。
あー惜しい。も、少しイケメンの赤面、拝みたかったのにな。
彼は耳が髪と同じくらい赤い。多分顔はもの凄く赤いはずであろう。
でも、良かった、聞こえてたみたいだ。ふぅっと私は安堵の息を漏らす。
にしても、珍しい。私のことけなしまくってたのだが。
すると今にも途切れそうな声が聞こえた。
「お前は、あの不気味なガイドにうなされてても…その…大丈夫。っていつも笑顔で…凄く励まされた…」
お! 涼くんは、そこまでガイドさんが怖かったのか! 確かに不気味だったしな。うん。
私は気付くとふんわり笑っていた。こんなに自然に笑うの久しぶりだな。まあ、目の前にいる彼のせいでキャキャウフフがなかったのだろうけど。
「そうか。ありがとう」
すると涼くんは頬杖をついていた手を私の額に持ってきて
優しくデコピンをした
…結構痛かったし。
「いった」
彼は照れ臭そうに目をそらす。怒られることしたっけ? よく意味が分からないと私は首をかしげる。
「…フン、お前なんかまだまだだかんな! せいぜいまぁ俺についてこい…遥」
「うん。まあ、着いていこうか」
着いていけば将来は安定だ。だが、私は思い出して、後悔した。涼くんは攻略対象だった。妹ちゃんに尽くして、こんな約束すぐ忘れるよね?
「ハリウッドつくわよ!ウフッ」
相変わらずちょっと…うん。というか、さっきから、前でずっとニヤニヤしてましたよね。
若いっていいわぁ。って呟くの聞こえてましたよ!そんなんじゃないですからっ!
涼くんが私を…すっ…す…なんて、絶対ないから!
読んでいただきありがとうございます。




