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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第八章 天に吼える
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10

 晃たちが壁の外へ出ると同時に、中から数本の荷電粒子銃の光が伸びてきた。まだ穴の

前に立っていた晃と笠井三等官は、光を横目に捉え、素早く両脇へ転がって避ける。

 晃たちが避けたとほぼ同じタイミングで、コリンが手にしていた大型荷電粒子砲の引き

金を引いた。

 大型荷電粒子砲の反動は凄まじい。男でも晃くらいの体格だと、簡単にひっくり返って

しまう。だが、か細いコリンが、びくともしない。晃は改めて、コリンが人造人間なのだ

と認識する。尋香たちと同じく、骨格を改造され、薬物で記憶や性格を操作されているの

だ。

 それでも、コリンは美鈴の『形見』だった。

 追っ手が来ないのを確認し、コリンは大型荷電粒子砲を、その場に置いた。

「お兄ちゃん、早く!」

 穴の脇の壁に転がったままの晃に、細い手を伸ばしてきた。晃は、生前の美鈴とは違う

が、同じように愛しい妹の手を握り返す。

 コリンが嬉しそうに笑った。花のような笑顔に、晃も自然と笑みを返した。

「とにかく、この部屋から出ましょう」

 柳原博士に肩を貸した笠井三等官が先に立ち、動き出す。

 ブレイン・メガ・コンピュータ・システムのあるコンピュータ・ルームは巨大な円形を

していた。天井に等間隔に並んだ、正方形の小さなLEDシーリング・ライトが薄い光を

落とす通路を、晃たちは丸い壁に沿って、反時計回りに出口を探して歩いた。

「玄関アトリウムには、尋香五人と、四課と五課の保安官四十人が、突撃の態勢で詰めて

います。上へ行くしかないですね」

 歩き出して間もなく、飯山医師の声が、また上方から聞こえてきた。

「君たちがいる、ブレイン・メガ・コンピュータ・システムのあるコンピュータ・ルーム

は、メガ・バイオ・コンピュータ・ルームの真下で、地下三階になります。上がるには、

申し訳ありませんが、階段を利用して下さい。現在、ブレイン・メガ・コンピュータ・シ

ステムの稼働率が六十パーセントまで落ちていますので、エレベーターの制御が全然でき

ません。……ちょっと、立ち回りを派手にやりすぎましたね」

「先生は、大丈夫なんすかっ?」苦笑する飯山医師に、晃は立ち止まり、右手の壁の上方

に取り付けられた監視カメラを見ながら尋ねた。恐らく、最初にセンター内を案内してく

れた笠井元二等官と同じく、飯山医師は監視カメラで晃たちの行動を見守ってくれている

に違いない。

 晃の考えた通り、監視カメラのレンズが、晃の顔を見つけて角度を変えた。

「ええ。さっき説明したように、僕はもう動けませんから。それに、彼等の……、ブレイ

ン・メガ・コンピュータとなった彼等の、最後の願いも、聞き届けなければなりません」

「ブレイン・メガ・コンピュータとなった人々の願い、ですか?」

 晃は、頭の隅のどこかで、答が解っている問いを、飯山医師に投げかけた。

「『このまま、誰にも見付けられずに、永遠に眠らせて欲しい』。——体を失った彼等の、

そして、彼等同様、もはや動けない僕の望みです。……それより、気を付けて下さい。ブ

レイン・メガ・コンピュータ・システムの稼働率が落ちているため、全ての階で防災シス

テムが稼働を始めています。通路確保のために、どうにか防災扉の開閉をコントロールし

ようと思っているんですが、防災システム用のコンピュータは、ブレイン・メガ・コンピ

ュータ・システムとは直結していないため、思うようにいきません。ところどころ通行止

めになると思いますので、監視カメラの映像を、『B—2』、いえ、笠井二等官の装着型

マイクロ・バイオ・コンピュータに送ります」

 やや緊迫した飯山医師の声に、笠井元二等官が『わかりました』と頷いてみせた。

 数秒後。笠井元二等官が装着型マイクロ・バイオ・コンピュータに、各階の一部の

監視カメラの映像が送られてきた、と告げた。

『——コンピュータ・ルームのマークAの出入り口から、保安官が出てきます。ちょうど、

私たちの現在位置とは真反対の出入り口です』

 笠井元二等官は、冷静だが緊張感を含んだ口調で伝えると、歩き出した。晃たちも、気

を引き締めて後に続いた。

『非常階段が、外壁側マークFの表示の左側にあるはずです。——すぐ、そこに』

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