表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空を飛ぶ  作者: 林来栖
第八章 天に吼える
98/113

9

 LPF(生体保護液)が水槽の割れ目から流れ出し、たちまち、水中に浮いていた脳が

下に落ちる。異常事態を察知した内部制御システムが、大音響で警報を鳴らす。

 晃は、保安官たちが退いてできた包囲の隙間から笠井元二等官と共に、ブレイン・メガ

・コンピュータ・システムの、林立する脳の樹木の間へと逃げ込んだ。すぐ後ろからは、

柳原博士を抱えた笠井三等官がついてくる。

 薄暗闇の中、二課の保安官が撃ち放つ荷電粒子の閃光と、飯山医師の操る、侵入者撃退

用の荷電粒子システムの光が交錯する。双方の銃撃によってって、ブレイン・メガ・コン

ピュータ・システムを構築していた多くの脳の水槽が、次々と壊されていく。

「飯山先生!」と、晃は、破損し飛び散る水槽のアクリルの破片や、零れ落ちるLPF 

(生体保護液)や脳を避けて走りながら、呼び掛けた。

「助けにいくから! どこにいるんすかっ?」

 必死に尋ねる晃に「僕のことは、いいですよ」と、穏やかな声が答えた。

「センターに連れて来られる時に、両足の大腿骨と、内臓の一部を損傷してしまいました。

現在は、LPF(生体保護液)と、ブレイン・メガ・コンピュータ・システムの力を借り

て、どうにか生きています。この状態では、助け出されても、すぐ死にます。……僕に構

わず、君たちは早くセンターから脱出して下さい」

「でも」と口走った晃を、笠井元二等官が、『静かにっ』と、鋭く制する。

 気が付くと、眼前に半透明の強化アクリル板の壁が迫っていた。

 壁の向こう側に、人のシルエットが見える。小柄な人影は、急いた靴音と共に、晃たち

の目の前に迫ってきた。

「下がって」と、背後にいた笠井三等官が前へ出た。荷電粒子銃を、シルエットに向けて

構える。

 人影が、不意にどんどんっ、と壁を叩いた。

「そこに、誰かいますか?」

 声に聞き覚えがあった。「コリン!」と呼びながら、晃は一歩前へ出た。

「晃兄ちゃん? 晃兄ちゃんが、そこにいるのね?」

 その呼び方は、生前の美鈴と同じだった。コリンは、完全に美鈴の記憶を受け継いでい

た。

「今すぐ助けるから、壁から離れてっ!」

 力強く叫ぶコリンの影が、何か大きなものを下げ持っている。気が付いた笠井三等官が、

晃たち三人を、コリンの影を中心に、大きく左右に開かせた。

 直後。壁の向こう側で眩い光が輝いた。

 鋸で金属を切断するような、引き攣れるような高音に続き、どーん、という爆音がした。

 半透明のアクリル壁に、穴が空いた。人一人どうにか通れるだけの穴の向こう側に立っ

ていたコリンの手には、携帯式で最大級の、対装甲車砲型大型荷電粒子銃が、握られてい

た。

 か細い少女の腕で、いったいどこから、こんな大物の銃を引っ張ってきたのか? 

 あまりにも突飛な登場の仕方に、束の間、白いウエット・スーツ型の戦闘用防護服に身

を包んだコリンを、晃は呆然と見詰めてしまった。

 柳原博士に背を叩かれ、我に還った。

「早く抜けないと。すぐ後ろに保安官が来ているよ」

 穏やかだが、緊迫した声で、晃は現状を思い出す。背後を振り返ると、数メートルも離

れていない場所で、侵入者撃退用の荷電粒子システムが、広範囲で輝くのが見えた。続く

轟音に、晃は思わず首を竦める。                         

 先に笠井元二等官が穴を潜った。柳原博士が続いて潜り、晃の背を笠井三等官が押した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ