表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空を飛ぶ  作者: 林来栖
第八章 天に吼える
97/113

8

「残念だったねえ! あんたはもう、お払い箱だってさっ。権力者は、いざ事が起これば、

保身しか考えなくなるからね。少しでも危険なものは、みんな切り捨てる。副所長の権威

も、もはや紙屑と一緒!」

 柳原博士は、ぐっ、と両手の拳を握り、肩を怒らせた。目を見開き、保安官の銃口を見

ていた晃に、「僕が動いたら、出なさい」と、低く命令する。

 どうする積もりなのか? 周囲は、一分の隙もなく、保安官に囲まれている。

 勝算の見当が全くつかないが、晃は言われるまま、膝を立て、すぐに動ける体勢を取っ

た。

 じりっ、と、保安官たちの輪が縮まる。先程の、二課の課長と思しき保安官が銃をやや

下げて、柳原博士に呼び掛けた。

「副所長、どうか、その場を退いて下さい。さもないと、我々はあなたも反逆者として、

射殺しなければなりません」

「すればいい。僕は、これまでずっと、《奇跡の羽根》に協力してきた。それに、僕自身

も《羽化しても生き残った者》だっ!」

 言い終わるか終わらぬかのタイミングで、柳原博士が『檻』の一部に腕を突っ込んだ。

 ばちばち、という、荷電粒子が他の物質分子と衝突する音がする。驚き、戸惑う晃に、

激痛を堪えた柳原博士が「早くっ!」と怒鳴った。

 二課の保安官の一人が、荷電粒子銃の引き金を引いた。真っ直ぐに晃に向かっていた光

の束は、しかし途中で笠井三等官の撃った荷電粒子銃の閃光に弾き返される。

 笠井三等官が腕を緩めた隙に、《YT—2》が水槽の支柱の間へと逃げ出した。

 俄に、室内に殺気が満ちる。迷ってはいられない。

 晃は意を決し、柳原博士の作った『檻』の隙間から出ようと動く。唐突に『檻』の荷電

粒子が消えた。

 柳原博士が『檻』に腕を入れた以上に驚き、晃は狼狽えて天井部分を見上げる。青白い

光の輪が、すっ、と、天井に吸い上げられるように消えていくのが見えた。      

 LEDペンダント・ライトを避けて、天井をよく見ると、直線や曲線の荷電粒子発射口

が、途中で枝分かれしながら、天井全体を長く覆っている。天井の荷電粒子発射口は、ど

うやら『檻』のためだけのものではなく、侵入者を撃退するためのものだ。

 晃が理解した直後、全ての発射口が青白く光った。何事かと見上げた二課の保安官たち

の頭上に、複雑な線描の荷電粒子が発射された。

 確実に射撃を受けた何人かの保安官が、激痛を訴えながら床に転がる。逃れた者も、陣

形を崩し、後退する。

 刹那、天井付近のスピーカーから、声が降ってきた。

「センターのコンピュータ・システムの大半は、僕がコントロールできるようにしました。

ですので、早くコンピュータ・ルームから出なさい」

 聞き覚えのある口調に、「誰だ?」と言い掛けた晃の手を、笠井元二等官が掴んだ。

『ありがとうございます。飯山先生』

 飯山医師と聞いて、晃は、まだ起動している大型ディスプレイを慌てて見た。画面に映

し出されている飯山医師は、ほとんど先程と変わらず、眠ったようにLPF(生体保護液)

の中に浮いている。

「先生は、何で話せるんだ? あの映像の場所は、どこなんだ?」

 センタービルに侵入したのは、美鈴の『真実』を知るためと、コリンと飯山医師を助け

出すためだ。

 晃を引いて走り出そうとする笠井元二等官に、晃は訴えた。

「先生を探さなきゃ!」

『分かっています。でも今は、無理です』

 笠井元二等官の、冷徹とも聞こえる返答に、目前の水槽の強化アクリルが割れる軋み音

が重なる。

 二課の保安官の撃った荷電粒子が、晃たちを外れ、ブレイン・メガ・コンピュータ・シ

ステムの一部を破壊した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ