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晃は、半透明ではない柳原の姿に、一瞬ぎょっとする。
3Dディスプレイで見ていたものと同様の、嫌らしい笑みを浮かべた柳原は、携帯電話
型の小型コンピュータで、大型ディスプレイの画面をアップにする。
「君のお友達の画像ばかりじゃあ、飽きちゃうと思ってね。紹介しよう。僕の兄だ。兄と
言っても、遺伝子的に、ってだけどね。僕は、父の長年の研究の成果で生まれた天才だか
ら」
「どういうことだ……?」と柳原を振り仰いだ瞬間、晃はあっと思った。
確かに似ているのだ。大型画面に映し出された飯山医師の顔と、柳原の顔は、瓜二つと
まではいかないが、なるほど兄弟と言われて頷ける。
先程、初めてディスプレイで柳原に会った時、どこかで見たと思った理由は、飯山医師
に似ていたためだった。
だが、遺伝的には兄弟だ、と強調するのは、なぜなのか?
両親の一方が違うという意味なのか? それとも、体外受精などの特殊な方法で、どち
らかが誕生しているから、なのか?
様々な状況を思い浮かべる晃にふん、と嘲りの笑いを浮かべ、柳原は腕を組み、大型デ
ィスプレイを振り返る。
「兄は普通の生まれ方をした。けれど、僕は父の研究を継ぐべく、生まれる前から選抜さ
れた。その意味は……」
突然の轟音が、柳原の声を遮った。
何事が起きたのかと、音の方向へ首を向けた晃の目に、《B—2》と笠井三等官の姿が
見えた。
二人は、混乱の中でも、上手くガスを吸わなかったようだ。晃たちの前に素早く駆け寄
ってきた笠井三等官は、矢庭に柳原の腕を掴むと、荷電粒子銃を頭に突き付けた。
「やっと、お会いできました。柳原副所長。本来なら、こんな形であなたと対面したくは
なかったのですが」
変わらぬ、平板な口調の中に、笠井三等官なりの怒りが含まれているのを、晃は感じ取
った。笠井三等官の脇に控えていた《B—2》が、静かに、しかし厳しい声で柳原に言っ
た。
『早く、日野くんを解放しなさい。さもないと、あなたもただでは済みませんよ』
柳原は、だが、独特の、喉の奥で転がすような、嫌な笑い方をした。
「ただで済まないのは、君たちのほうだろうね? ほら」
柳原は、顎を前方へ突き出した。と、周囲の薄闇から、保安官たちが数十人、ぞろり、
と出てきた。
手に手にライフル型の荷電粒子銃を持った保安官は、脳の入った水槽の細い支柱と支柱
の間に、ほぼ等間隔で並んだ。水槽は、晃が閉じ込められた『檻』から凡そ二メートル離
れている。水槽内の脳は、ブレイン・メガ・コンピュータ・システムの一部なのだ。傷付
ける訳にはいかない。
「君たちは、さぞかし上手くここへ忍び込んだ積もりだったろうけどね。僕は、君たちが
日野くんを助けにくるのは、計算済みだったんだよ」
柳原は、げらげらと大声を上げて笑った。
「一旦は日野くんを置いて逃げたけど、君たちは、絶対に日野くんを見捨てない。必ず助
けに来る。なぜなら、『仲間』だからだ、とね。——でもねえ、そもそも『仲間』って、
何なんだい? 親兄弟、とか、友達とか、なんで君たちは、そんなものに拘泥するのかな
? 教えてくれないかな、そこの笠井さんちのご姉弟?」
晃は意外な事実に、一瞬、息を止めた。