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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第八章 天に吼える
92/113

3

「君が会っていたのが、主人格で日野美鈴の記憶を持った、二十一番。コリン実験体は大

多数の場合、主人格は僕たち研究員に従順で、大人しい性格に造られている。尋香の能力

を与えられたものだけは、副人格に戦闘用の闘争的人格を造られるけどね。コリンたちは

定期的に脳内物質調整の薬を投与されて、人格の統合による、主人格の記憶の復帰が起こ

らないようにする。——ああ、話が大幅に逸れちゃったね」             

 柳原は、くるり、と晃に背を向けた。と、柳原の3Dディスプレイが消える。

 晃は、ほっと両肩を下げた。

 束の間、晃はまだ大型ディスプレイに映し出されている、浅野の姿を見詰めた。

 晃が、浅野を巻き込んでしまった。自分が美鈴の遺体の謎にこだわり、コリンの中に美

鈴の姿を見つけたりしなければ、浅野は捕えられたりしなかったのだ。

 LPF(生体保護液)に浸けられ、実験体にされたりもなかった。何より、浅野が、お

そらくは絶対に隠しておきたかったであろう、羽化している事実を、曝さずに済んだ。

 晃は、申し訳なくて俯いた。小さな声で「ごめん」と、何度も呟く。

 後悔の涙が、握り締めた両手の拳と、頭上の、LEDペンダント・ライトが作った晃自

身の影に落ちた。

 ぽたり、と肌に当たった涙の感触が、晃を現実に引き戻す。

 泣いていたって、事は進まないだろう、と自分自身を叱る。自分の責任だと悔やむのな

ら、浅野を一刻も早く助け出さなくてはいけない。

 また、笠井三等官と《B—2》の消息も気になる。晃を騙してここまで連れてきたにせ

よ、笠井三等官たち公安特殊警邏隊と《奇跡の羽根》のメンバーたちが、いずれも免疫セ

ンターに反抗しているのは事実だ。

 麻生たちにも会って、本当のところを問い質したい。それにはまず、周囲に巡らされて

いる荷電粒子の『檻』から、何としても抜け出さなくては。

 何か術はないものか? 晃は、強行軍のお陰で埃っぽくなった外套の袖で涙を拭うと、

もう一度じっくり周囲を見回した。

 大型ディスプレイの画面の遙か後ろに、ちらりと何かが動く気配がした。

「敵か? それとも、味方か?」と晃が警戒した時。いきなり大型ディスプレイの画面が

切り替わった。今度も、LPF(生体保護液)に浸けられた人の姿が映し出された。

 晃は、浅野同様に立った姿でアクリル容器に収容されている見知った人の姿に、思わず

瞠目した。

「飯山先生っ!」と大声で名を呼んだところで、ディスプレイの中の飯山医師に聞こえる

はずもない。身を乗り出した晃は、飯山医師の頭部に、ブレイン・ギアと呼ばれる、脳波

を読み取り、別所にあるコンピュータにケーブルで情報を伝える器具が取り付けられてい

るのに気付いた。

 何のために? と、心中で問いかける晃のすぐ傍に、いつやってきたのか、生身の柳原

が立っていた。

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