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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第七章 神の代理人の城
85/113

9

「みんな、どこにいるんだ……?」

 生きているのか、それとも、殺されてしまったのか? 

 襲いくる不安に気持ちが挫けそうになり、晃はぎゅっ、と下唇を噛み締める。

 突如、目の前に一人の男の3Dレーザー・ディスプレイが現れた。青緑の、体にぴった

りフィットしたドクタースーツを着た男は、神経質そうな切れ長の目で晃を見ると、薄い

唇の右端を持ち上げる。

「やっとお目覚めのようだね、日野晃くん」

 年齢は、晃より三〜四歳は上に見えた。細面の顔には、どこかしらで見た覚えがある。

 だが、思い出せない。しかし、声は、はっきりと覚えている。先刻晃たちのいたメイン

・コンピュータ・ルームの前室に、催眠ガスを撒くように指示した男の声だ。

 晃は、本当にこの部屋の床に立っているが如く眼前に立つ、等身大の3Dレーザー・デ

ィスプレイの男に、激しい嫌悪を感じた。

「他のみんなを、どうした? まさか、殺したんじゃねえだろうな?」

 低く唸るように、晃は詰問した。男は「おやおや」と、わざとらしく肩を竦める。

「初対面の会話の端緒は、お互いに名乗り合うのではないのかな? 僕の名を尋ねる前に、

仲間の安否を尋ねるとは。余程こちらに信用がないようだね?」

 余裕ある態度で晃を揶揄する男を、晃はむかっとして睨み付ける。

「あんたの名前なんか、聞きたくもないし、どうでもいい。俺が知りたいのは、浅野と笠

井さんがどうなったのか、ってことだっ!」

「ははは、正直じゃあないな、晃くんは。本当に一番知りたいのは、妹の美鈴ちゃんの内

臓の行方だろう?」

 なるほど、全て調査が済んでいる訳か。

 晃は向かっ腹を立てている割には、頭の隅で冷静に考えた。こういう思考の使い方がで

きるようになったのも、何かといっては、どやしつけてくれた八木のお陰かもしれない。

 男の嫌味な笑い顔を睨んだまま、晃は声を落とし、答える。

「妹のことも、確かに知りたい。でも、今は生きている仲間の安否のほうが、大事だ」

「仲間……ねえ」男は、嘲りを深め、くるりと晃に背を向けた。

「やはり、物事は順序に従って進めよう。まず、僕が何者なのかを名乗らせてもらおう。

——僕は、柳沢聡哉。細菌・ウイルス学博士で、塔経市中奥区立大学客員教授。また、免

疫学と脳科学、生物情報学でも博士号を持っている。ああそれと、法医学者でもある。現

在の主な職務は、免疫センターの副所長」

 では、この男が、赤嶺三等官の言っていた、《柳沢副所長》か。          

 二十五、六の若さで五つの博士号と、名門大学の客員教授とは、並大抵の天才ではない。

 ずば抜けた能力で若くして高位を得た、中央の衆目を集める人物、というわけか。

 世界が閉塞し、人々の気持ちも荒廃している現代。野心もバイタリティーも頭脳もある

若者に、公安の上層部や中央の高級官吏が現状打破の期待を寄せ、柳原に過剰な権利を与

えたのも頷ける。

 だが、天才だからといって、何をしてもよい訳ではない。特に、人の心を踏み躙り、人

を人とも思わぬような所行を繰り返しているのは、許せない。

 晃は、《奇跡の羽根》への裏切りを吐露した時の、赤嶺三等官の悲痛な表情を思い出し、

眼前の柳沢に対し、ますます嫌悪を募らせた。

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