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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第七章 神の代理人の城
84/113

8

 頭が朦朧としていた。しばらくして、明かりの正体は、天井から下げられた球形のLE

Dペンダント・ライトであると分かった。

 晃の寝転がっている床面から、やや黄味掛かった淡光を放つ丸いライトまでの距離は、

凡そ二メートル。LEDライトは、構造上、上部が暗くなる。それから推察しても、ここ

の天井は免疫センターのメイン・コンピュータ・ルームの天井よりは、ぐっと低いことに

なる。

 免疫センターの、メイン・コンピュータ・ルーム。その言葉を思い浮かべた途端、晃の

目が覚めた。                                  

 そうだ、自分は免疫センターのメイン・コンピュータ・ルームへ向かっていたのだ。浅

野と笠井三等官、それに《B—2》と一緒に。

 他の者たちは、ここにいるのか? 確かめようと、晃は急いで上半身を起こした。ぐら

り、と景色が回った。まだ、先刻の催眠ガスの影響が残っている。

 先程の奇妙な夢も、ガスのせいだろう。潰れていく美鈴に似た何者かの姿を思い出して

気分が悪くなった晃は、まだ覚醒しきっていない頭を両手で抱え、前屈みに上体を折る。

 刹那、替えがなく、履き過ぎてぼろぼろになった革のブーツの先端に衝撃がした。

 ばちっ、という、炒り豆が爆ぜるような音に驚いて、晃は顔を上げた。

 靴先を見る。僅かに黒く合皮が焦げている。足先には何の支障もないが、一体何に触れ

て起きた衝撃なのか、と足先を覗くと、数ミリの場所に、青く光る細い線が見えた。

 晃には爪先の線が、荷電粒子によって描かれていると、瞬時に分かった。線は円を描い

て、晃の周囲をぐるり、と囲んでいる。

 直径は二メートルほどである。靴の先が触れてショートした強さから、まともに体が線

に当たれば、火傷か、下手をすればショック死し兼ねない量の荷電粒子が張り巡らされて

いると判断できる。

 どうやら、この線は『檻』らしい。

 晃を『檻』に入れたのは、間違いなく免疫センターの人間だ。この場所も、免疫センタ

ービルの一室だろう。

 床面に放電口がないことから推測して、放電口は上であろうと思い、晃はもう一度じっ

くり天井を見上げた。

 ペンダント・ライトの淡い光が邪魔になり、天井そのものがよく見えない。そこで初め

て、晃は自分の推測が間違っているのに気が付いた。

 天井が低ければ、床に反射したペンダント・ライトの光で、ぼんやりとでも天井の造形

は見える筈である。天井が見えないのは、ライトのコードが、思った以上に長いのだ。床

から二メートル程の高さの照明の光が全く届かないくらい、この部屋の天井は高い。

 その上、広い。ペンダント・ライトの光は、確かに淡いものだが、それでも晃の服や靴

を充分はっきりと見せている。

 にも関わらず、荷電粒子の檻の先に何があるのか、ほとんど見えない。ぼんやりと分か

る、床から上へと伸びた、幾本もの細長い棒状の物体も、上部に半円形の水槽らしきもの

を載せていると分かるだけで、中身までは、はっきりしない。

 見えないのなら、と、晃は耳を澄ます。しかし、聞こえるのはほんの微かなモーターら

しき機械音と、こぽこぽという、水槽内にエアーポンプが空気を送るような音のみである。

 人声も、靴音も、何一つしない。

 薄闇に包まれた、動き回るのも制限された場所で、晃が得られた情報は、このだだっ広

い室内に、恐らく自分一人だけが閉じ込められている、という現実だった。      

 誰か近くにいれば、晃と同じく『檻』に入れられた状況でも、気配で話し掛けてくるは

ずだ。

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