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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第七章 神の代理人の城
80/113

4

 一見して、女性は武器らしきものは携帯していない。研究員のようだ。

 が、一つ奇妙なところがあった。顔の真ん中から上、額までを、不透過の黒色スクリー

ン・グラスで覆っているのだ。

 武器を携帯していなくとも、顔を隠しているという時点で、充分に怪しい。     

 晃は、女性に対し不信感を募らせる。晃とは反対に、真正面から対峙している笠井三等

官は、至って落ち着いた態度で女性に尋ねた。

「あなたが《B—2》ですか?」女性は、ゆっくりと頷いた。

『お待ちしていました』と言った声音は、先程の機械音声と全く同じである。しかも、唇

が全く動いていない。

 どうなっているのか、と驚き、晃は身を乗り出す。

 半身、エレベーターの扉口から乗り出した晃に気が付いた《B—2》が、ややぎこちな

い動きで、晃に顔を向けた。目線の分からないスクリーン・グラスの顔に『直視』され、

晃は思わずぞっとする。

『——私の声が耳障りなのは、本当に申し訳あれません。ある事情で、声帯を失ってしま

いましたので、この装着型マイクロ・バイオ・コンピュータで脳波を測定し、スピーカー

を振動させて、音声にしています』

 音は機械的なのに、よく聞くと《B—2》の話し方には、人らしい抑揚がある。逆に

「そうですか」と返した笠井三等官の言葉には、肉声なのだが感情の起伏がなく、平板で

ある。

 二人の相違に気が付いて、晃は奇妙な気分になった。

『みなさんを、これから地下二階のメイン・コンピュータ・ルームにご案内します。どう

ぞ』

《B—2》が、くるりと背中を向けた。後頭部の高い位置で一つに束ねた黒髪が、ふわり、

と揺れる。

 瞬間、《B—2》の髪の中に、装着型マイクロ・バイオ・コンピュータから伸びた幾本

もの細い管が潜り込んでいるのが見えた。

 脳に直結しているコンピュータは、声帯の機能を補っているだけではないだろう。

 なぜ、このような状態になったのか、との問いが頭を過った。だが、今は尋ねるべきで

はないと思い、晃は脳裏の質問は打ち消した。

 歩き出した《B—2》に従って、笠井三等官も動き出す。多少の不安と疑問があるが、

とりあえず前へ進むしかない、と決めて、晃も《B—2》の後を追った。

 エレベーター・ホールから出ると、《B—2》は左右二つの通路の、左へと入った。

 通路は、左にゆっくりと湾曲していた。左側の壁は透明な強化アクリル板が一面に張ら

れている。

 アクリル板を通して見える光景に、晃は息を飲んだ。

 地下一階から二階を抜いて造られた広いワンフロアの室内の中央に据えられているのは、

巨大なメガ・バイオ・コンピュータである。

 乳白色の強化ナノ・セラミックで覆われた円筒形のマシンは、見た限り、直径二十メー

トルはある。晃が知る限りのコンピュータの規模を遙かに凌駕している。       

 中奥区立大学のメイン・コンピュータも、世界のメガ・バイオ・コンピュータの五指に

入ると言われているが、それでも免疫センターのマシンの半分ほどの大きさでしかない。

 異常な大きさである。確かに、塔経市中、いや、世界中の生物の研究情報を処理するた

めには、これくらいの規模でなければならないのかもしれない。

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