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裏門を照らす街灯の中へ、三人は躍り出る。残っていた二人の保安官が晃たちに気付く
より先に、笠井三等官が荷電粒子銃を発射した。
小銃から発射された閃光は、狙い違わず二人の保安官の喉を焼いて貫通する。
笠井三等官の、あまりの射撃の腕の良さに、晃は驚愕した。束の間、その場に立ち尽く
す。
ぽかん、と、口を開けて突っ立っていた晃を、笠井三等官が振り返った。
「何をしているのです? 急ぎますよ」
先に行った浅野が、紙片の解除番号を見ながら、門の脇に取り付けられた小型のキーボ
ードを叩く。程なくキーボードの上の小さな液晶画面に『解除』の文字が点灯した。
笠井三等官が、裏門の扉を引き開ける。素早く中へと滑り込む笠井三等官に従いて、晃
と浅野も門内に入る。
通用口のすぐ手前で、呼吸困難で息絶えた保安官を見下ろし、晃は申し訳なく思った。
仰向いた顔は、黒いフルフェイス・ヘルメットに隠されていて、表情は分からない。
無念だったろうと、晃は想像する。こんな争いさえ起こらなければ、この二人の保安官
は死ぬことはなかった。晃も、この保安官たちとは出会わなかったか、もっとよい出会い
方をしたかもしれない。
センターが、晃たち市民を実験体としか見なさない態度を採らなければ。更に、レリア
・ウイルスなどという『悪魔』が、この世界に蔓延しなければ。
人間が、オオトゲアレチウリという怪物を、深い森の闇から引き出さなければ——
だが、過去は決して覆らない。晃たちは、先の時間へ進むしかない。今、自分たちがし
ている行為が、もっと先の未来に、きっと光をもたらすように、信じるしかない。
浅野が、通用口の扉の前で「早くっ」と、手招きしていた。
晃は、悪夢のような『過去』を振り切るべく、二人の保安官の遺体から目を逸らし、歩
き出した。
「何してたんだ? 早くしないと、正門へ行った連中が戻って来ちゃうよ!」
少々苛立った口調の浅野に、晃は「悪い」と謝る。外套の内ポケットから、奥平から預
かったカードキーを取り出す。
大型の貨物用エアカーがすんなりと格納される大きさの通用口の右端に、カードキー・
ボックスの付いた生体認証のセキュリティー・ボックスが取り付けられている。
「カードキーを読み取った後、生体認証セキュリティー・ボックスが作動を始める仕組み
です」
晃は、淡々と説明する笠井三等官の隣に立つと、カードキーをボックスの差し込み口に
挿入した。
音もなくカードキーがボックスの中へと吸い込まれ、一秒経つか経たないかで、吐き出
された。程なく、生体認証ボックスのモニターが立ち上がった。
女性の声に似せた音声ガイドが、生体認証を要求してくる。晃は、本当に認証されるの
か、不安な気持ちのまま、右手のひらをモニターに押し付けた。奥平がいった通り『B—
2』が予め晃の生体認証をシステムに登録していれば、何事もなく認証されるはずだ。
音声ガイドは、すぐに『認証しました』と返した。虹彩認証も同様に、問題なく認証さ
れた。晃は、胸を撫で下ろした。
ほっとしたのは、晃だけではなかった。脇で見守っていた浅野が、小さな声で「よしっ」
と気合いを入れ、拳を握った。
笠井三等官が、ボックスの赤いボタンを押す。通用口の、ファイン・セラミックス製の
オーバー・スライディング・ドアが、ゆっくりと持ち上がっていく。