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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第六章 命の意味
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14

「時計を見せてくれないか?」と、奥平は唐突に晃に頼んだ。何だろう、と思いつつ、晃

は腰のベルト・チェーンで下げている時計を、黒の合皮パンツのポケットから引き出す。

 奥平は、晃から渡された時計を手に取った。楠の枝の間から漏れる街灯の明かりに照ら

し、時刻を確認する。

「そろそろだな。余興のクライマックスまで」

 奥平は、にやっ、と口角を引き上げた。どう見てもくたびれた老人でしかない奥平なの

に、いたずらを企んでいる子供のような笑顔は、きらきらとして見えた。いったい何が始

まるのか? 鼓動が早まり、「何が、始まるんすか?」と、恐る恐る、晃は奥平に訊ねた。

「『打ち上げ花火』だよ」と、奥平はいたずら小僧の顔のまま、告げた。

「だが、とても大事な花火だ」

「仕掛け物の作動は、やはりA隊ですか?」

 笠井三等官が、感情の入らない声を潜めて、奥平に訊ねた。

「保安官たちが、うまく陽動に乗ってくれればいいんだがねえ。駄目な場合には、八木く

んたちD隊に援護を頼む段取りになっているよ。——君たちは、通用口に並んだあの保安

官たちが動き出したら、中へ駆け込みなさい。入ったら、右側の壁の扉を抜けて、廊下を

ひたすら進めば、正面玄関のアトリウムへ出られる。センタービルは、入る場合は、アト

リウムを通らないと、どこの階にも行けない厄介な構造になっているんでね」

 奥平が苦笑混じりに答えた直後に、巨大な光の炸裂が、センターの正面門の方角で起こ

った。続いて、地を揺する轟音が、晃たちの耳を襲う。

 裏門からは見えるわけがないのだが、晃たちは、思わず正面門の方向を振り返る。

「何なんですか? あの光は?」浅野が、半ば驚き、半ば楽しそうに奥平に訊ねた。

 奥平は「本当に花火だよ」と、親指を立て、おどけたジェスチャー付きで返した。

 そんな奥平の態度に、浅野は呆れた顔になる。

 再び正門方向から光が上がる。間違いなく、花火のようである。白い光ばかりでなく、

上部には、赤や青の色がちらほらと見える。

 作戦通り、裏門を警護していた保安官たちが動き出した。互いに何かを確認し合う仕草

をしたあと、保安官たちが、裏門を離れる。

「たかが花火でも、爆発物は爆発物。地上で炸裂すれば、怪我人も出る。とにかく、うま

く行ったようだね」

 楽しげに笑う奥平が先頭になり、晃たちは、そろそろと木陰から出る。

「裏門のロックの解除番号は、ここに記してある」

 奥平が、外套の右ポケットから紙片を取り出し、浅野に渡した。

「ここから先は、君たちの力だけが頼りだ。私たちは、周囲から援護するしかできない。

通用口からアトリウムまでの廊下には、隠れられる部屋は一切ない。《B—2》は、保安

官や尋香はその辺りには配置されないように工夫したと言っていたが、予定は変更される

こともある。気を引き締めておきなさい」

 晃は、奥平の言葉をしっかり頭に叩き込み、黙って頷く。             

「行きます」という笠井三等官の言葉を合図に、晃と浅野、笠井三等官は走り出した。

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