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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第六章 命の意味
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「このカードキーのICチップには、免疫センターに納入している、各搬入業者にそれぞ

れ振り当てられている暗証番号と、会社とセンターとの間で取り決めた暗号文が、書き込

まれている。だが門内に入るには、他に二つの生体認証を行わなくてはならない。静脈認

証と、虹彩認証だ。生体認証は、《B—2》に前もって日野くんのものを、セキュリティ

ーシステムに登録しておいてもらった」

《B—2》の名を聞いて、晃は微かな不快感を覚えた。

 赤嶺三等官は、《B—2》からセンターの内部情報が《奇跡の羽根》側に漏れている事

実を、センターの副所長は知っている、と言っていた。

 赤嶺三等官がセンター側の動きを知っていたのは、つまり《B—2》が赤嶺三等官を裏

切らせたからではないのか? 

《B—2》は二重スパイであり、《奇跡の羽根》の構成メンバーを一人でも多く裏切らせ

る工作を行ったのではないのか?

 不安と不審が顔に出たのだろう、奥平は微笑んで、そっと晃の肩に節くれ立った手を載

せた。

「赤嶺くんの裏切りは、水原くんから先程、聞いた。しかし、赤嶺くんが私たちから離れ

ようと思った理由は、《B—2》が勧めたからではないよ。《B—2》は、家族のことで

後悔している赤嶺くんに、単なる事実を告げただけにすぎない。家族の臓器を実験材料に

使われて、赤嶺くんのように、それでも家族が生きていると考えられる人間は、そう多く

はない」

 妹・美鈴の臓器も、実験に使われた可能性が高い晃としては、奥平の言葉は全く同意で

きる。赤嶺三等官の考え方は、遺族の中でも特殊だと思う。

 しかし、裏切りは強要していない、ただ事実を告げただけなら、本当に《B—2》が二

重スパイでない、という保証にはならない。

 罠かもしれない。だが『罠であっても、敢えて乗れ』と、先刻、麻生は言った。他に方

法がないのだから、敵の撒いた餌と承知していても、食い付くしかない、と。

 頭では納得していても、どうにも腹の虫が納まらず、晃は奥平を睨んだ。

「今は、こんなこと言うべきじゃないのは、分かってます。けど、俺は《B—2》って人

が、信用できない」

 この期に及んで文句を言うのは、時間の無駄であるし、無意味であるのも分かっている。

 口をついて出てしまった文句の納めどころに迷いつつ、奥平を見据え歯を食いしばった

晃に、奥平は「ふむ」と唸って、胡麻塩の顎髭を撫でた。

「私は、真樹区の、崩れかけた野外ステージで歌う君を、ずっと見てきた。君の歌には、

いや、『声』には、人々を強烈に惹き付ける何かがある。その何かとは——ひとつには、

君の誠実な人柄なのだろうと、私は分析している。君は頑固で勝ち気だが、根は正直で素

直だ。正義感も強い。だからこそ《B—2》や赤嶺くんの言動に、反発を感じるんだろう」

 どうだね? というように目を覗き込まれ、晃は返す言葉に詰まった。奥平は、晃が自

分について常々思っている心情を、見事に言い当てた。

 更に、赤嶺三等官と《B—2》に感じている、不信感の根本も。

 奥平は不意に苦笑すると、戸惑う晃から目線を外した。

「そうだな……。私も、今この状況下で言うべきではないことを、言ってしまっているね」

「大丈夫です、先生。晃くんは、やるべきことは全て、理解しています」

 笠井三等官の平板な声が、晃を擁護する。意外に思って振り向く晃に、笠井三等官は無

表情で頷いて見せた。

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