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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第六章 命の意味
74/113

12

 保安官たちは、ライフル型の荷電粒子銃を腹部の前に構え、両足を肩幅に広げ、微動だ

にしない。黒いフルフェイス・ヘルメットを、時折ゆっくりと左右に振っている。

「こんなに警備が厳重な場所に、本当に『奇跡の羽根』のリーダーがいるんですか?」

 浅野が怪訝な顔で、声を潜めて笠井三等官に尋ねた。

「というより、この厳重な警備体制で、どこにリーダーって人がいるんすか? 上手く、

その人に会えたと仮定して、どうやって中へ入るんすか?」

 どう見ても、無理だろう。非難が混じった晃の質問に、笠井三等官は冷静を崩さずに答

えた。

「《奇跡の羽根》のリーダーの奥平さんは、元国立生物学研究所の所長で、専門は『植物

性誘導性植物シノモン』の分類と研究でした。研究の途上で、自分たちの『目印』を消す

物質を、発見したそうです」

 もしかしたら、例の『香り』のことか——と晃は思う。奥平さんという人が、麻生と同

じ《羽化しても生き残った人》なら、己の生命を守るのに『香り』を消すのは、なにより

大事だ。

 訳が分からないという表情で、浅野が晃を振り返る。が、今は、詳細な話をしている時

間はない。

「あとで説明する」と、晃は浅野の肩を軽く叩いた。

「けど、『目印』を消したとしても、センターの近くをうろついていたら、不審者として

尋問されますよね?」

 晃の疑問には、意外な方向から答えが返ってきた。

「年寄りというのは、そういう時こそ便利なんだな」                

 声に振り向き、晃は驚いた。反対側の路肩からこちらへ渡ってきた老人は、晃の見知っ

た人物だった。

「あんたっ! 真樹区の野外ステージで、いつも俺の歌を聴いてた……!」

「しっ! 声が大きいよ」老人——《奇跡の羽根》のリーダー奥平は、胡麻塩の髭の生え

た口に人さし指を当てた。

 晃は、思わず息を止める。

 笠井三等官と浅野が楠の枝の間から首を伸ばし、警護の保安官がこちらを気付いていな

いか、確かめる。幸い、保安官は晃の声には気が付かなかったようだった。晃はほっとし

て、自分の頭に片手を乗せ、止めていた息を吐き出した。

 奥平は、晃の表情を覗き込むと、おどけた顔で、にやっと笑った。

「年寄りは、どこにいても疑われることが少ないんだよ。力はないし、縁石なんかに腰掛

けてぼーっとしていれば、ちょっとぼけてるかもしれない、と思われるしね。よもや、こ

んなじじいが、反乱分子を率いてるかもしれないとは、保安官も思わないのさ」

 確かに、そうかもしれない。真樹区南外縁という、生活困窮者や弱者、敗者が集まる場

所で、老人は更に弱い存在だ。最低弱者と思われている真樹区外縁の高齢者が、絶対的支

配者である塔経市中央官庁や公安局に、喧嘩を売れるはずがない、と誰もが思う。

 さすがに《奇跡の羽根》という大組織を指揮するリーダーである。侮れないなと、晃は

気を引き締めて、奥平の皺深い顔を見詰めた。

「さて」と、奥平は笑顔のまま、くたびれた灰色の長い外套の内ポケットから、十センチ

ほどの長さの、細長いカードキーを取り出した。

「搬入業者に潜入した仲間が、やっと持ち出してきてくれた。しかし、これは、あいにく

『神の代行者の城』の外門を開けるだけの鍵だ」

 奥平は晃の手を取り、片目を瞑って、手のひらにカードキーを載せた。

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