11
笠井三等官は、正門前の保安官の人数を、改めて数えた。
「十人、ということは、一小隊だけですね。人数からすると、第一小隊か第二小隊です」
淡々と分析する笠井三等官に、浅野が「そんなことまで、分かるんですか?」と、やや
興奮したような、上ずった声で訊いた。
「二課は、公安の本体ともいうべき機動部隊です。第一小隊から第五小隊まであり、各小
隊の構成人数は、十人から二十人。大型火器を携帯する場合としない場合で、小隊の人数
は変わります。第一と第二小隊は先鋒を勤めることが多いので、人数は通常、最小です」
学習コンピュータの論文解説を聞いているような笠井の説明は、分かりやすいが堅苦し
い。晃は少々頭が痛くなった。眉間に皺を寄せた晃に、笠井三等官の視線が向けられる。
「八木課長は、十二年前のレリア・D—iウイルス感染者の暴動の鎮圧に際し、めざまし
い働きをした功績で、小隊長から二課長に昇進しました。自分の姉が殉職して、三カ月後
です。八木課長は、課長として半年間職務したのち、退職しました」
笠井三等官が言わんとしている事柄が、晃には分かった。八木は二課課長として職務に
就いていた間、自分は助かり、許嫁が死んだという事実に、猛烈に苦しんだのだ。苦しみ
ながら、許嫁の遺体に頭部がなかった謎を解こうと、必死に動き回ったのだ。
その八木が、今回の、千載一遇である機会を、晃に託した。失敗はできない。
「では、行きましょう」笠井三等官が、徐に、ビルの陰から出た。
晃と浅野は笠井三等官について、道路を渡った。低い植え込みに隠れるように、身を屈
め、門前を見据える。
正門に背を向けて、通用口へと路肩を北側へと向かう。街路灯の光を避けながらの中腰
の行軍は、疲労した足に堪える。
伸び放題の植え込みの灌木の、横に飛び出した枝を避けようとして、足がもつれ、晃は
思い切り尻餅をついてしまった。
痛みに声を発しかけて、辛うじて飲み込む。笠井三等官の腕が、すかさず晃の体を起こ
した。囁き声で怪我の有無を聞かれ、大丈夫だとジェスチャーで返した。
周囲に注意を払いながら静かに前進し、やがて、三人はセンターの北側通用口に着いた。
門の高さは、正門と同じ三メートル八十センチ。上部には、侵入者防止のための針状のセ
ンサーが無数に埋め込まれている。扉の幅は、人間が通ることだけを想定しているため、
およそ一・五メートル。この幅を超える物品は全て、貨物用エアカーで搬入している。
門の内側は、貨物用エアカーが離着陸するための、大型のエアカーポートが設けられて
いる。またビルの通用口は、貨物用エアカーがそのままビル内へ侵入できるよう、間口を
広く取っている。
横に幅のある通用口の上部には、夜間照明の、やけに長い直管型LEDのブルーライト
が、ぼんやりと灯っていた。二つの細長い照明の前には、二十人ほどの保安官が並んでい
る。
灌木同様、手入れされていない、枝が伸び過ぎた楠の陰に陣取り、晃たちは敵の動きを
じっと見詰める。