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しんがりは、笠井三等官が引き受けてくれた。ビルの中に入ると、笠井三等官は、三つ
ある扉のうち、真ん中へ入るよう、晃たちに指示した。
背後に、保安官が二人、追ってきていた。笠井三等官は玄関の脇に隠れて待ち伏せ、入
ってきた保安官を次々と殴り倒した。骨格をサイボーグ化している笠井三等官の一撃に、
あっけなく保安官たちは昏倒する。
扉を薄く開け様子を見ていた晃に、笠井三等官は平板な口調で指示した。
「その部屋の奥の扉が、裏口へ抜ける廊下へ繋がっています。行って下さい」
晃は、握っていたドアノブを放した。
昏倒した保安官二人を跨ぎ、笠井三等官がバランサーで閉まりかけた扉を引き開ける。
晃たちは、長年使用されていない建物内に舞う埃の中を走り、裏口へと出た。
通り抜けられるビルは、それが最後だった。センターまでは、そこから長い上りの坂が
続く。通り沿いのビルの凹凸に隠れながら進むしかない。
左手にセンタービルの明かりを見ながら、晃たちは敵に注意しながら進んだ。
晃は、先刻の戦いでどっと疲労が増していた。両足が、もはや自分のものとは感じられ
ない。丸太でも引き摺っているようだった。
あと少し、あとちょっと、と、己の挫けそうな気持ちを励ましながら、のろのろと前へ
進んでいた。
体力がほんの少ししか残っていないこんな状態で再び敵に出くわせば、絶対に逃げ出せ
ない。恐らく、浅野や笠井三等官に、自分を置いていってくれ、と、告げる覚悟をしなけ
ればならない。
晃は、半ば諦めの心境で歩を進めていた。
しかし、幸運というべきだろう、敵には一切見つからず、センターの正門前百メートル
の辺りにまで、なんとか辿り着いた。
晃たちは、センターの正門の左手前のビルの陰から様子を窺った。門前には尋香六人と、
保安官十人が、びっしり張り付いている。
麻生が受けた八木からの連絡では、門前の尋香は十人ということだった。四人は、別な
場所に移動したということか。
「あの保安官は、二課ですね」
薄暗がりで、どうして見分けられるのか分からないが、笠井三等官はさらりと言った。
晃は、あっと思った。
「二課って、店長が元小隊長だった……?」
笠井三等官は、黙って頷いた。
公安の保安官たちは、個々人の判断で『奇跡の羽根』に協力している。表立って公安上
層部に叛旗を翻しているのは、特殊警邏隊のみだ。
分かってはいるが、八木の元部下たちが敵になっていると考えると、なんともやり切れ
ない。
眉を顰めた晃に、笠井三等官は幸いな補足をした。
「八木課長の元部下の保安官は、ほとんどが公安を退職しています。皆、民間人となって
《奇跡の羽根》のメンバーに加わっています」
「じゃあ、現在の二課の保安官は、八木さんとは関係が全然ないんだ……」
これから生死を懸けて戦わねばならないのだ。八木が、元部下と敵味方にならないで済
んで、晃は内心でほっと胸を撫で下ろした。