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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第六章 命の意味
70/113

8

 軽い衝撃が、手のひらに伝わる。続いて、どさり、と重たいものが地面に落ちる音がし

た。

 晃は、恐る恐る、目を開ける。

 街灯の明かりが薄めた闇の中に、それまであった尋香の姿は、もはや見えなかった。代

わりに、見知った防護服の、見慣れぬ男が立っていた。

 特殊警邏隊の濃灰色の防護服を着用し、ヘルメットは被っていない。スキン・ヘッドの

男の出現に、晃は驚いて跳ね起きた。

「早く立ち上がって下さい。間もなく、四課の保安官もこちらにやってきます」

 静かな低い声を聞き、晃はようやく男が笠井三等官であるのが分かった。てっきり見慣

れない人物だと思ったのは、ヘルメットがなかったからだ。

 最初の敵をどうにか退け、こちらへ駆け付けてくれたのだ。三課の保安官との戦闘がか

なり過激であったのは、笠井三等官の防護服のあちこちが、焼け焦げや傷や血液で汚れ、

さらにフルフェイス・ヘルメットがなくなっていることで分かる。

 ほうっ、と、晃は体から力が抜けた。強く握り締めていた手から、荷電粒子銃が滑り落

ちた。

 笠井三等官が、晃の足下に転がった銃を拾い、渡してくれた。礼を言い、手を伸ばした

晃は、笠井三等官の、向かって右の背後に、尋香が仰向けに倒れているのに気が付いた。

 一辺五十センチの車道用特殊セラミック・タイルに大の字になった尋香に、晃は一瞬、

ぎくり、とする。

「あの……、笠井さん。俺が、尋香を殺したんすか?」

 晃は、倒れたままの浅野に、膝をついて声を掛ける笠井三等官に、おずおずと尋ねた。

 荷電粒子銃の引き金は、確かに引いた。

 笠井三等官は、ゆっくりと振り向く。真上から見下ろした笠井三等官のスキン・ヘッド

には、いくつもの手術跡と、音響機器の入出力端子のような、小さな丸い穴がいくつか空

いているのを、晃は見付けた。

「いえ。日野くんではありません。自分が、背後からナイフで心臓を刺しました」

 感情の窺えぬ無機質な口調で、笠井三等官は答えた。晃は自分が殺したのではなかった

ことに内心で少しほっとしながらも、同時に、敵を断固として退ける勇気がない自身を恥

じた。

「尋香は、センターの命令には絶対に背きません。また、痛みというものを知りません。

殺さない限り、この女たちは、いつまでも我々を襲ってきます」

 穏やかだが、はっきりとした笠井三等官の言葉に、晃は背を叩かれた気分になった。た

だ頷いて自分の弱さを受け入れる以外にない。

 笠井三等官に腕を引かれ、ようやく浅野が立ち上がった時。晃の背後で、どーん、とい

う轟音がした。

 晃は思わず首を竦める。同じく身を縮めた浅野と、目が合う。振り向こうとした時。

「何をしている! 早くビルへ駆け込め!」麻生の怒声が聞こえた。

 晃は慌てて走り出しながら、麻生たちに首を振り向けた。

 麻生と益田三等官は、公園の右側の出口まで敵を後退させていた。しかし、新たな敵が

出現し、対装甲車砲型の大型荷電粒子銃を携えて、二人を狙っていた。

 先程の轟音は、大型荷電粒子銃が遊具の残骸を撃ち抜いた音だった。        

 大型の荷電粒子銃だけではない。新手には、尋香が二人も加わっている。

 あんな大勢を、麻生と益田三等官だけに任せて、自分たちは逃げてしまっていいのか?

 晃は逡巡し、束の間、立ち止まった。

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