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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第六章 命の意味
69/113

7

「危なかったな」と、片眉を釣り上げた麻生に対して、益田三等官が「すみません」とヘ

ルメットの頭を掻いた。

「下手すれば、麻生さんまで撃ち抜いてしまう、とは思ったんですが」

「益田の腕は信用している。俺が心配したのは、そっちじゃなくて、この二人だ」

 渋い顔で告げると、麻生は、草の中に座り込んだままの晃に腕を伸ばした。麻生の手を

掴もうと手を伸ばして、晃は、自分の指先が小刻みに震えているのに気が付いた。

「……いいっす、自力で立てます」

 尋香の襲撃の恐怖に震えている、などという、みっともない事実を知られたくない。特

に、麻生には。

 立ち上がろうと、晃が草の上に手をついた瞬間。先に立ち上がった浅野が「新手だっ!」

と、緊張した声を挙げた。麻生と益田三等官が、同時に浅野の目の先を振り返る。

 向かいのビルの前に、三課と思われる紺色の防護服の保安官三人と、先刻倒した尋香と

同じ、海老茶色のワンピース・タイプの防護服を着た尋香が一人、立っていた。

 晃は、奥歯をぐっ、と噛み締める。

 こう次から次と敵が現れるとなると、やはり赤嶺三等官の言っていた通り、こちらの動

きはセンター側に筒抜けなのだろう。

 このままでは、コリンを助け出すどころか、センターに辿り着くのも、至難の業だ。

 だが、諦めてしまうことは断固できない。何としても、晃はセンターに辿り着かなくて

はならない。

 三人の保安官が、ライフル型の荷電粒子銃を構えた。尋香が、手の中に納めていたバタ

フライ・ナイフの刃を出す。

 先程の尋香が襲撃してきた恐怖が、緩やかに晃の背筋を這い登ってくる。

 突破策はあるか、という思いを込め、晃は麻生の横顔を見上げた。晃の視線に気付いた

麻生が、ちらり、と後ろに目線を向ける。

 麻生の腕が、僅かに上がった。晃は、麻生の手が左前方を指しているのに気が付いた。

タイミングを計り、左のビルに走れという合図だ。

 晃はゆっくり頷くと、右に立つ浅野の腕を掴んだ。

 晃の動作が合図になった。三課の保安官が、一斉に荷電粒子銃の引き金を引く。晃と浅

野は、雑草の中を一目散に、ぜいぜい息を切らせて左側のビルへと走った。

 飛び交う閃光をどうやって交い潜ったものか、何とか無事に公園を抜けた時。

 晃の眼前に、尋香が立った。胸の高さにバタフライ・ナイフを構えた尋香は、LEDラ

イトに赤い目を光らせて向かってくる。

 晃は、浅野を背負ったまま後ずさる。浅野が、遊具の鉄屑に躓いて倒れた。晃は浅野の

足に引っ掛かり、浅野の上に倒れる。

 倒れながら晃は、水原二等官から預かった小型荷電粒子銃を、必死で外套の内ポケット

から取り出した。

 ナイフを振り上げてくる尋香は、痛みを感じないためなのか、銃口を向けられても怯む

様子がない。白髪の、少女にしか見えない容姿の殺戮者は、無表情に晃を見据え、どんど

ん近付いてくる。

 晃の鼓動は、恐怖に凄まじい速度で脈打っている。銃を固く握った両手の震えが止まら

ず、引き金に掛けた指にも、力が入らない。

 晃の下敷きになってしまった浅野は、倒れた時にどこかに怪我をしたのか、横になった

まま動かない。

 早く尋香を倒さなくては。このままでは、浅野ともども、尋香の刃に殺されてしまう。

 薄闇の中で、尋香の顔が、造作まではっきりと見えるほどに近付く。もうだめだと、と

晃は目を瞑り、覚悟を決めて引き金を引いた。

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