6
ツイン・ビルを抜けた晃たちは、また通りに出た。
通りの向こうは、小さな児童公園だった。長い間使用されていないと見られる公園は、
壊れた遊具が伸び放題の雑草に埋もれている。周りを囲う高さ七十センチほどの塀には、
子供向けに、蝶や鳥の形のLEDのカラーライトが取り付けられていた。
赤や黄色の可愛らしい光は、打ち捨てられて久しい遊び道具の残骸を、揶揄するかのよ
うに照らしている。
晃たちは雑草の中へ分け入った。赤錆を纏い、脆くなった遊具の成れの果てを避けて、
公園の中程へと差し掛かった時。行く手の通りの街灯に、人影が浮かび上がった。
「尋香だ」という浅野の密やかな声に、ぼんやり考え事をしていた晃は、夢から覚めた人
のように、はっと目を上げた。
か細い肢体に、海老茶色の、ワンピース・タイプのスリム防護服を着た尋香は、コリン
と同じ、耳の下で切り揃えた白い素直な髪を、夜風に靡かせている。右手に握られたバタ
フライ・ナイフが、蝶の形の照明にきらりと光った。
背の低い草ばかりが生い茂った公園では、隠れようもない。尋香の顔は、はっきりと晃
たちに向けられている。
少女のような体つきの尋香は、ナイフを持ち直し、ゆっくりと近付いてきた。
麻生が左腕を横に上げ、浅野と晃を背に庇う。益田三等官が、荷電粒子銃を構え、麻生
の脇に並んだ。
晃は、鼓動が徐々に早まるのを感じる。
尋香が、足を速める。公園の雑草が薙ぎ倒され、風に乗り、草の臭いが晃の元に運ばれ
る。麻生は腰を落とし、飛び掛かってくるであろう敵に備えつつ、後ずさる。
晃と浅野は、麻生の広い背に押されて下がった。
尋香がナイフを振り翳し、麻生に躍り掛かる。益田三等官が、荷電粒子銃の引き金を引
いた。
細く伸びる閃光が、薄闇を裂く。的確に顔面を狙ったはずの光線は、あっさり尋香の驚
異の身体能力によって回避されてしまった。
寸でで宙で体を捻り、荷電粒子銃の攻撃を躱した尋香は、目標の麻生よりも左に逸れて
着地した。猫のような軽やかさで、尋香は着地の体勢からすぐさま、麻生にナイフを繰り
出す。
麻生は、体を反転させ、右袖で尋香のナイフを払う。しゅっ、という小気味良い音がし
た。麻生の外套の右袖が、十センチほどを残して裂けていた。
尋香のナイフが、麻生から晃と浅野へと向きを変える。凶刃が浅野に届く寸前、晃は浅
野に体当たりした。
ナイフを避けた二人は、草むらに倒れ込む。迫る尋香の腕が、晃の脇腹にナイフを突き
立てようと振り下ろされた——
が、白い手に握られたバタフライ・ナイフが晃の体に吸い込まれることはなかった。
麻生の左腕が、尋香の腰を押さえていた。と同時に、益田三等官が、今度は狙い違わず、
荷電粒子銃を尋香の目に命中させた。
小さな落雷にも匹敵する電流で目から脳を焼かれて、尋香は絶命する。がっくり力の抜
けた体を、麻生はそっと地面に下ろした。