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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第六章 命の意味
66/113

4

 逃げ込んでいたビルは、正面玄関から裏口へ抜けることができた。

 麻生を先頭に、晃と浅野は、センタービルに通じるルートを進む。最後尾には、益田三

等官がついてくれた。

 敵の目がないか確認しながらビルの外壁に沿って進むのは、時間も、神経も費やす。

 人気の少ないのを幸いと通りを闊歩する猫が、歩道の側面に設置された、夜空に放射さ

れる淡いLEDの明かりを横切る。緊張がピークに達していた晃は、猫の影に思わず飛び

上がった。

 気が付いた浅野が振り返り、苦笑した。

「猫、通ったね?」

「分かってるよ」と、晃は恥ずかしさをごまかすため、口を尖らせた。

 気を取り直そうと、晃はベルトに吊るしたアナログ・ウォッチを、ビルの玄関灯の薄明

かりに翳す。細い針は、十時三十分を指している。

 気付けば飯山医院からここまで来るのに、半日以上も経っている。飯山医師は、大丈夫

だろうか?

 それに、尋香に連れて帰られたというコリンは、どうしているだろうか?

 二人とも、まさか既に殺されたりはしていないと思いたい。だが、人を人ともみていな

いというセンターである、必要なしと判断すれば即座に処分、という場合もあり得る。

 飯山も、コリンも、もはやこの世界に存在しないかもしれない——

 マイナスな思考を振り払おうと、晃は長髪を二、三度乱暴に振り回す。

 先を行っていた麻生が、周囲を一巡り見渡し、通りを跨いだビルの正面玄関へ向かって

走った。晃と浅野、益田三等官も続く。

 濃紫色の強化アクリル製の両開きの扉を押し開け、フロアへ入る。正面がエレベーター、

左右が片開きの扉となっているフロアは、どう見ても先ほどのビルのように通り抜けでき

るとは思えない。

 が、麻生はこのビルの構造を知っている様子で、迷うことなく右の扉を押し開けた。

 二百年前、真樹区がこの国の経済拠点だった頃には、さぞ活気のあるオフィスであった

ろう室内は、現在、LEDの非常灯がぼんやりとした光を放つほかは、何一つない。

 晃たちが立てる埃が、足下を照らすLEDライトの薄い光の中に、乱舞している。

 麻生は薄闇の中を、どんどんと進んでいく。細長いオフィスの中を突っ切り、左側面の

角にある扉を開けた。

 出た先は、暗闇だった。勝手知ったる動作で、麻生は扉のすぐ脇を手で探る。

 間もなく天井のLEDシーリング・ライトが点灯した。

 柔らかい明かりの下に立ち、晃はほっと緊張が解けるのを感じた。と同時に、自分たち

を先に逃して戦闘の場に留まった者たちを思い出す。

「水原さんと、笠井さん、大丈夫かな……」

 誰に問うともなしに呟いた晃に、浅野が「そうだね」と小さく同意を返した。

「結構、囲まれてたしね。俺たち、よくあそこを突破できたよな」          

「水原さんたちなら、大丈夫ですよ」

 やや心配気味な表情を浮かべた浅野に、益田三等官が笑いかけた。

「我々特殊警邏隊は、こういった野戦の訓練を、嫌というほど受けています。ですので、

少々の窮地では簡単に音を上げません。……とは言っても、赤嶺の裏切りは予想外でした

が」

「赤嶺も赤嶺なりに、色々と悩んだ結果だろう」

 麻生はぶっきらぼうに言い、歩き出した。晃は内心で頷いた。 

 麻生も八木も、腹が立つほど口が悪い。だが、皮肉を言いながらも、二人とも言った相

手に対して実はとても誠実なのだ。

 晃は、ようやく人間関係が少し解ってきた。

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