表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空を飛ぶ  作者: 林来栖
第六章 命の意味
65/113

3

「まだ、こんなところにいたんですか」

 益田三等官だった。小型の荷電粒子銃を片手に構えた益田三等官は、風防を上げると、

目に掛かった汗を指で拭った。

 つい先刻別れたばかりなのに、益田三等官の防護服は、もうあちこちに焦げ痕があった。

かなり激しい戦闘が三課の保安官との間で繰り広げられたのだと、晃は気付いた。

「早いとこ、センターへ向かって下さい。この調子だと、じきに尋香まで出てきそうです

よ」

 口をへの字に曲げた、小柄な益田三等官を見下ろして、麻生は渋い顔をした。

「センターに辿り着く前にやつらに出くわすのは、得策じゃあないな」        

「でしょ? ですから、これ、どうぞ」

 益田三等官は、ウエスト・ベルトに吊るした携帯ホルダーから携帯電話を取り出し、麻

生へ手渡した。

 左の手のひらに載った折畳式の電話に麻生が鋭い視線を落とした時、電話が鳴った。

 晃は音に驚き、びくん、と身を竦ませる。浅野も目を見開いて、携帯を見詰めた。

 麻生は、晃と浅野を渋い表情のまま一瞥すると、携帯を開いた。

「こちらaE35—1J6qの携帯——八木かっ?」

 麻生の強い声が呼んだ名に、晃は弾かれたように駆け寄った。

「店長からですか?」と尋ねた晃に、麻生は振り返って頷く。

「今、どの辺りだ? センタービルの、北側だと? ……ああ、分かった」

「八木課長は、なんて?」

 通話を終え携帯を畳んだ麻生を、益田三等官が焦れた顔で見上げる。麻生は、難しい表

情で答えた。

「尋香が十人ほど、センタービルの正面に貼り付いている。やつらは全員強化ナノ・セラ

ミック製のバタフライ・ナイフを携帯しているそうだ」

 痛みを感じず、己の筋力の限界を知らない尋香が、戦闘用のナイフを縦横に振るったら、

どうなるか。こちらとしては、相当の損傷を覚悟しなければならない。晃は恐怖を感じ、

固唾を飲んだ。 

「それから。裏へ回って、じいさんに会え、と」

 麻生は、仏頂面で外套の内ポケットに入れた。浅野が首を傾げ、麻生の顔を見る。

「じいさんって、誰ですか?」

「《奇跡の羽根》のリーダーだ」

 てっきり《奇跡の羽根》のリーダーは、麻生だと思っていた。意表をつかれた晃は、歩

き出した麻生を追い掛けて、麻生の、中身のない外套の右袖を掴んだ。

「何者なんすか? その“リーダーのじいさん”って?」

 足を止めた麻生は、晃の手から無表情で右袖を引き抜くと、ずいっと、息が掛からんば

かりの近さに、顔を寄せてきた。

「センタービルに行けば、誰だか分かるぞ」

 度肝を抜かれて目を見開く晃に、麻生は、片頬を歪ませて、いたずら小僧のような笑み

を見せた。

 こんな表情の麻生は、見た記憶がない。返す言葉を失った晃の肩を、麻生は、

「行くぞ」と叩いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ