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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第六章 命の意味
64/113

2

 ライフル型の荷電粒子銃を腰高に構えた敵に、晃と浅野はじりじりと、後ずさりで奥へ

向かう。

 正面玄関から続く廊下は、大の男が二人やっと通れるほどの広さである。その上、廊下

の両側には、飛び込んで隠れられそうな部屋もない。

 晃は、一瞬ちらっと、背後を振り返る。

 背後は突き当たりに見えた。が、天井に等間隔に並んだLEDの明かりの様子からだと、

左右に通路が伸びているようだ。T字路まで下がり、どちらかの通路に飛び込むほかに、

逃げ道はない。

 晃は、横目で背後の浅野に目配せする。浅野は分かったらしく、僅かに頷いた。

 保安官は、赤嶺三等官が言っていた通り、晃たちは生け捕りにするつもりのようだ。今

のところ、荷電粒子銃を発砲してくる気配はない。

 向き合う三課の保安官の、濃紺のフルフェイス・ヘルメットの風防を睨み据えながら、

晃は左手で壁を撫でるように触りながら後退する。

 息詰まる時間が、どれほどだったのか。

 突然、正面玄関が開き、麻生が入ってきた。驚いた保安官が振り向くのとほぼ同時に、

麻生はヘルメットで防護された保安官の頭部を素手で殴った。

 ハンマーのように横に振られた麻生の左腕が、フルスピードでヘルメットに当たる。

 晃は、思わず顔を背けた。いくらなんでも、無理だ。強化ナノ・セラミックに耐熱絶縁

体塗料で色付けした、鋼鉄をも凌ぐほどの硬度を誇る保安官のフルフェイス・ヘルメット

を、素手で殴るなんて。絶対に腕が折れる。

 がきん、という、硬質のもの同士がぶつかり合う音がした。麻生の怪我を確認すべく目

を戻した晃は、ライフル型荷電粒子銃を両手で振り被ったまま、横様に倒れる保安官を目

撃する。

 衝撃の結末に驚いて駆け寄った晃は、保安官のヘルメットの側頭部に大きな穴が開いて

いるのを見つけ、更に驚く。

 晃はあんぐり口を開けたまま、目を保安官から麻生に向けた。かなり急いでここまで来

たのか、まだ肩で息をしている麻生は、倒した相手に目を落とし、呟いた。

「俺の腕は、レリア・D—iウイルスのせいで、骨が強化ナノ・セラミックと同等の硬さ

になっている。腕だけじゃない。全身の骨の硬度が、やたら上がってるんだ」

 顔を顰め、麻生は己の拳へ目を移す。

「皮膚も、皮下組織も、骨の硬化に合わせたように頑強になった。……感染して、そこだ

けは得をした点かもしれん」

「でも、右腕は……、尋香に折られた、んですよね?」

 遠慮がちに尋ねた浅野に、麻生は唇を歪めた。

「折られたんじゃあない。いくら強化ナノ・セラミック並みに骨の強度が増したといって

も、駆動部の関節は弱い。俺の右腕は、尋香が肘の関節から、引き千切ったんだ。だが、

尋香も、ただでは済まなかったけどな。俺は皮一枚でぶら下がった右腕から、やつの手を

引き剥がすのに、やつの目を狙って、思い切り荷電粒子銃をぶっ放した。チタン超合金の

頭は、荷電粒子には強いが、脳だけは弱い。尋香は頭部の穴という穴から、溶けた脳をぶ

ちまけて、倒れた」

 飯山医師から以前聞いていた事実ではあるが、改めて、千切られる腕と飛び散る脳を想

像して、晃は気持ち悪くなった。同じ想像をしたらしい浅野が、隣で口を片手で押さえ俯

いた。顔を背けた晃の耳に、再び玄関の自動扉の開く音が聞こえる。

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