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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第六章 命の意味
63/113

1

「それで仲間を、家族を守りたいって理由で、裏切ったのかっ?」

 銃を向けたままの益田三等官を睨んでから目を逸らし、赤嶺三等官は、薄明かりの中で

風防を上げ、見上げた。

「……体はなくなっていても、家族の臓器は生きてる。俺は、家族を、もうなくしたくな

いんだっ」

 泣き笑いの顔で、赤嶺三等官は力なく両膝をタイルの上に着く。

 E隊の先頭から引き返してきた麻生が、厳しい表情で水原二等官を助け起こした。

「《B—2》と連絡を取っていたのは、笠井と赤嶺、それと水原くんか」

 低く唸った麻生に、赤嶺三等官が、青いLEDライトの光に照らされてなお青い、亡霊

のような顔を向ける。

「……免疫センターの柳沢副所長は、今夜の事態を、かなり以前から把握していた。《B

—2》による情報流出は、柳沢副所長も承知のことだ。《奇跡の羽根》の動きも、副所長

は知っている。もうすぐ、三課の連中がここへ来る」

 赤嶺三等官の言葉が終わるや否や、通りの反対側の建物から、十人ほどの、武装した保

安官が飛び出してきた。

 紺色の防護スーツを纏った三課の保安官たちは、手に手に荷電粒子銃を持ち、晃たちを

包囲するように散開する。

 水原二等官に片腕を貸し、迫りくる敵を睨み据えた麻生に向かって、赤嶺三等官が間延

びしたような声で言った。

「あなたと日野くんに関しては、生け捕れと副所長から言われている。「大事な実験体だ

から」と。他は、場合によっては殺しても構わない、と」

「赤嶺っ、貴様——!」食いしばった歯の間から、怒りを押し出すように水原二等官は唸

った。

 先輩保安官の、憤怒の形相を見上げていた赤嶺三等官は、不意に乾いた笑い声を立てた。

「俺は……、間違ったことなんかしていない。——投降して下さいよ、水原さん。そうす

れば、命までは取られない。どだい、無理なんですよ、公安や、中央、免疫センターなん

て巨大なものに、俺たちだけで楯突こうなんて」

「負け犬の世迷い言を聞いている暇は、ない」

 朗らかなこれまでの様子からは考えられない酷薄な態度で、水原二等官は赤嶺三等官の

提言を切り捨てる。                               

 晃を押さえていた笠井三等官が、不意に晃に囁いた。

「右の二人を潰します。敵が倒れたら、斜め右のビルに向かって走って下さい」

 麻生に支えられていた水原二等官が、麻生の腕を離れた。その行動が合図になった。

 先頭に残っていたE隊の二人の隊員が、素早く路上に横転、荷電粒子銃の引き金を引い

た。

 公安のどこの部署よりも訓練を積み重ねてきている特殊警邏隊隊員の動きは、見事であ

る。応戦する間もなく脚を撃たれた三課の保安官が、悲鳴を上げて転倒する。

「走って!」という、笠井三等官の叫びに背を押され、晃は指定されたビルの玄関へと一

目散に向かう。

 灰色の外套をはためかせて走る晃の脇を、荷電粒子銃の稲妻が掠める。

 ひやりとして、一瞬びくっと足を止めかけた晃の手を、浅野が捕まえた。

「気にするなっ! 止まったら撃たれるっ!」

 晃は、浅野に引っ張られ、再び走り出した。二人の背後で何度も、荷電粒子銃が歩道の

タイルを抉る音がした。

 這々の態で、右斜め前のビルの正面玄関に飛び込む。強化アクリルの自動扉が閉まる寸

前に三課の保安官が一人、ビル内に滑り込んできた。

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