表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空を飛ぶ  作者: 林来栖
第五章 観るもの
62/113

13

「ですが、家族は生きています。もう体はありませんが、内臓や脳は、免疫センターの中

で実験体に移植され、今も生き続けていると、研究者から聞かされました。——どんな形

ででも、家族が生きているのなら、自分は満足なんです」

 すうっと、赤嶺三等官の手が腰に伸びる。

 急に様子が変わった赤嶺三等官に、晃は、嫌な予感を覚える。           

 赤嶺三等官の手が腰のホルダーから引き抜いた荷電粒子銃を握り、晃に銃口を向ける。

 銃口から発された細長い光が、晃の太腿に一直線に届くまで、〇・一秒もかからない。

 当たる寸前で躱した晃は、道路側の植え込みの陰に転がった。

「どうして、俺を撃つんですかっ?」

 なにが何だか分からない。驚きと衝撃が綯い交ぜになったまま、晃は怒鳴った。

 赤嶺三等官は、植え込みをゆっくり回りながら、抑揚のない声で答えた。

「自分の故郷、奈波市は、もうありません。でも、センターの中には、自分の家族が残っ

ています。あの中に、自分の故郷があるんです。ですから、自分はセンターを守ろうと、

堅く決めたんです」

 身を低くした晃の前に、赤嶺三等官が立った。再び、赤嶺三等官が晃に銃を向ける。

 晃は、道路に体を投げ出す。晃の動きを追った赤嶺三等官の腕が、荷電粒子銃の引き金

を引く——

 しかし、銃口から迸った光は、晃の体には当たらなかった。

 伸ばした右手の先の路面を削った最高出力の荷電粒子の稲妻に、晃はおののく。

「早く立って!」

 声の方向に目を向けると、水原二等官が赤嶺三等官の腕を掴んで押さえつけていた。

「晃くんっ、早く逃げて!」

 自分よりも大柄な赤嶺三等官をなんとか押さえ込みながら、水原二等官が必死に晃を促

す。晃は、急いで立ち上がると、駆け出した。

 異変に気付いたE隊の他の隊員たちが戻ってくる。恐怖と疲労で足がもつれ、晃は再び

倒れかかる。歩道のタイルに手がつく前に、笠井三等官の腕が晃を支えた。

 と同時に、益田三等官の、水原二等官を呼ぶ悲鳴のような声が聞こえた。

 振り向くと、赤嶺三等官の荷電粒子銃が、水原二等官の大腿部を撃っていた。短い呻き

声を上げ、水原二等官が歩道に倒れる。

 引き返そうとした晃の腕を、笠井三等官の力強い腕が捕まえる。

「離せ!」と晃が叫ぶのと、益田三等官が赤嶺三等官の銃を握った手を撃つタイミングが、

重なった。

 荷電粒子銃が、赤嶺三等官の手から離れ、街路灯の仄明かりの中、宙を舞う。

 腕を押さえて蹲った赤嶺三等官に、銃を構えたままの益田三等官が近付いた。

「赤嶺! 貴様、なんでっ!」

 激しい憤りで声を裏返らせた益田三等官の詰問に対し、赤嶺三等官は、少し離れた晃に

ようやく聞き取れるほどの声で、答えた。

「家族も、家も、レリア・D—iウイルスによって奪われて、俺は、とうとう独りぼっち

になった。遠縁を頼って、塔経市に来た。伯父も伯母も、優しかったけど、俺は、やはり

独りだった。……みんなに、会いたかった。公安に入っても、特殊警邏隊に入っても、家

族への想いは変わらなかった。そんな時、《B—2》に言われた。「君の家族は、実験体

の中で生きている」と。だから——」

 赤嶺三等官の言葉は、最後は涙で掠れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ