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五百メートルほど、ビルに沿ってジクザクに前進する間に、晃は徐々にE隊と水原二等
官たちから遅れ始めた。追い付こうと早足にした途端、足がもつれた。
盛大に歩道に転んだ晃に、E隊の最後尾の隊員が気が付いた。
「大丈夫ですか?」
駆け戻ってきた隊員は、晃を助け起こすと、外套の埃を軽く叩いてくれた。
「ありがとう、ございます」
みっともなくて、晃は俯いて礼を言う。晃より頭二つ分背の高い隊員は、フルフェイス
・ヘルメットの風防越しに、微かに笑んだ。
「どこも怪我はないですか?」
そこへ水原二等官が、先頭から引き返してきた。
「どうした? 赤嶺三等官」
「なんでもありません。俺が、ちょっと、こけただけで」
晃は、どんな顔をしてよいのか分からず、眉を顰めて水原二等官を見た。水原二等官は
風防を上げ、にっ、と笑った。
「気を付けて下さい。先はまだ、ちょっとありますから」
「では」と片手を挙げ、水原二等官はE隊の先頭に戻る。地下道でずっと背負っていたイ
ンターナル・フレーム・パックをファイヤー・ウインドに置いてきて背が軽くなったため
か、水原二等官の足取りは、やけに軽快だ。
「行動が早いすね、水原さん」
その上、さすがは日頃から鍛練している保安官である、浅野邸から続く地下道を歩き詰
めた後だというのに、全く疲れが見えない。
自分とさして年が離れていないだろう水原二等官の背を、半ば呆れ、半ば羨ましく見送
った晃に、赤嶺三等官は「水原先輩は人一倍、元気な人ですから」と柔らかい声で返した。
晃は、赤嶺三等官のイントネーションを聞いて、ふと思い付いて尋ねた。
「失礼ですけど、もしかして赤嶺さんて、奈波市の出身ですか?」
この国の最南端に位置する奈波市は、十二年前のレリア・D—iウイルス大流行で、二
百年間に亘って辛うじて保っていた市の人口、約千人の四分の三以上を失い、壊滅した。
原因は、不十分な病院施設と、首都塔経市からあまりに離れた場所のため、ワクチンの
輸送が間に合わなかったためだと噂されている。
生き残った僅かな人々では、街の機能を維持することができず、レリア・D—iウイル
ス流行の収束から三ヶ月足らずで、奈波市はオオトゲアレチウリの大波に飲まれた。
大都市である塔経市では、奈波市の出身者は珍しい。好奇心から思わず尋ねた晃に、赤
嶺三等官は「そうです」と、静かに答えた。
「自分は、奈波市の中心部に、一家七人で暮らしていました。けれど、今は一人です」
「ご家族全員が、その……、レリア・D—iウイルスで亡くなられたんですか?」
頷く赤嶺三等官の表情が、風防越しでも分かるほど、曇った。
兄弟がレリア・D—iウイルスの犠牲になったのは、晃も同様だった。にも関わらず無
遠慮に尋ねてしまい、晃は申し訳ないことをした、と反省する。
晃が謝罪を言い出すより早く、赤嶺三等官が口を開いた。