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「恐らく、尋香はセンタービルの近くを護っていると思います。近付いて、先に我々と接
触するのは、公安三課と四課の保安官でしょう」
E隊の後ろ、最後尾に付いた晃に、益田三等官が下がってきて囁く。晃は、ぼんやりと
見上げていた、薄闇に浮かぶセンタービルから、足下からの街灯に透けて見える益田三等
官の真顔に目を移した。
「俺は……、メイン・コンピュータから妹のデータを取り出すのと、もう一つ、人を探さ
なきゃなりません」
「コリン、ですか?」
頷く晃に、益田三等官は難しい顔をして、唸った。
「コリンに関しては、八木課長と麻生さんにも頼まれて《B—2》にセンター内を探して
貰ったんですが……。それらしい人物は見つからなかったそうです」
「どうして——」と言い掛けて、晃は声を飲んだ。
同じ組織に所属していても、部署が違えば顔も名前も知らない事例は多々ある。
《B—2》は、コリンとは面識がない、別の部署の人間なのだろう。
急速に萎んだ気持ちを抑えて「そうですか」と、晃は歩き出す。後ろから、益田三等官
が追い掛けてきた。
「でも、ですね。免疫センターのメイン・コンピュータで検索すれば、必ず見つけ出せる
と思いますよ。うん、大丈夫です」
何の根拠で、と、晃は一瞬むっとする。しかし、益田三等官なりに、晃の気持ちを落ち
込ませないよう、一生懸命に気を使って言っているのだろう、と思い直した。
「そうですね。コリンは、俺がきっと見つけ出して、連れて帰ります」
無理矢理どうにか口の端を吊り上げて意気込んだ表情を作った晃に、益田三等官は子供
のような笑顔を返した。
その直後。センターの方角から、稲妻のような閃光が、夜空に走った。続いて聞こえて
きた、なにか大きなものが砕けたらしい轟音。
「ハンディ・タイプの荷電粒子砲の光だ!」益田三等官が叫んだ。
「いよいよ、始まったな」麻生が厳しい声で言った。
「我々も、所定の位置に急ぎましょう」水原二等官が、歩を速めた。
人影がまるでない、異様な南外縁の街中を、晃たちとE隊の五人は、センタービルに向
かった。敵から見られないよう、ビルの壁伝いに慎重に進む。
現在の場所からセンタービルまでは、目算で約二キロメートル。普段なら、さほどな距
離ではない。が、半日以上ずっと歩き続けた疲労は、晃の動きを確実に鈍くしていた。
履き慣れた合皮の編み上げブーツが、やけに重い。一歩を歩く度に、ふくらはぎの筋肉
が引き攣れる感じがする。