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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第五章 観るもの
59/113

10

「おー。遅いっすよ、水原さん」

 真ん中に立っていた、一番背の低い隊員が、フルフェイス・ヘルメットの風防を上げて、

入口に駆け寄ってきた。

「いや、済まない。……で、様子は?」

 水原二等官は苦笑しつつ、後輩らしき笑顔の仲間に問いかける。

「はい。C隊は、すでに戦闘配備についています。D隊は、八木課長の指揮待ちです」

 八木の名を聞いて、晃は、はっ、とした。思わず一歩を踏み出す。

「店長、無事なんすか?」

 小柄な晃より更に小柄な隊員は、驚く風でもなく、晃に目を向けた。

「ええ。ぴんぴんしてますよ。……あー、あなたですね、課長の店で働いている日野くん、

でしょ?」

 頷いた晃に、隊員は、体に似合った童顔を、くしゃっと歪ませて笑った。

「頑固で生意気だけど、根は素直で真面目で可愛いヤツだって、あの堅物の八木課長が嬉

しそうに言ってました」

『あの堅物』で偏屈な八木から、可愛いなどと言われたのかと思うと、身の毛がよだつ。

気色悪さに眉を顰めた晃に、隊員は慌てて、「あ、いえ、決して悪口じゃありませんから」

と、方向違いな訂正を付け加えた。

 晃の斜め後ろで、水原二等官と浅野が、一緒に吹き出す。晃は、眉間に皺を寄せたまま

「なにが、おかしいんだ?」と、二人を睨んだ。

 浅野が、笑いでひしゃげた顔を無理に戻しながら、「いいや」と首を振った。

「ここで無駄話をしている暇はないだろう。サブ・コンピュータの復旧まで、あと二十時

間ちょっとだぞ?」

 扉に寄り掛かった麻生が、苛立たしさを含んだ強い声を上げた。

「準備が整っているのなら、すぐに作戦に懸かったほうがよいと思いますが」

 笠井三等官も、抑揚がないながら、水原二等官や仲間の保安官のおふざけに、少々苛つ

いているらしい発言をする。                           

 水原二等官は「すまん」と肩を竦めると、小柄な保安官に真面目な顔で言った。

「では、益田三等官。早速、作戦を始めよう」

 水原二等官よりくだけた性格の益田三等官は、表情を引き締めると、「はっ」と敬礼し、

防護ブーツの踵を合わせた。

 五人の保安官が新たに加わった一行は、再び敵陣となる店外へと向かった。

 ファイヤー・ウインドの扉の外は、相変わらず静かだった。益田三等官の話では、午後

五時に、公安が夜間外出禁止を発表したためだ。

 特殊警邏隊隊員たちのセンター攻略作戦は、至ってシンプルである。各五人から十人を

五隊に分け、時間差でセンタービル正面へ攻撃を仕掛ける、という作戦骨子だ。

 A隊から順に始め、晃たちが合流したE隊が最後に攻撃する。尋香の人数は『Bー2』

から約四十人という連絡が来ている。

 ファイアー・ウインドを出る間際、晃は益田三等官から、

「センター内のアトリウムに入ったら、すぐに左側の壁面上の監視カメラに二度、頷いて

くれと、先刻『Bー2』から連絡が入りました」と、告げられた。

 LEDライトの明かりで薄められた夜の闇の中に立ち、晃はしばし、センタービルを見

詰めた。

 あの光の城の中に、コリンがいる。早く助け出さなければ、コリンはどう処置されるか

分からない。ホワイト・ウインドに転がり込んできた時の大怪我も、多分、センターから

逃げ出した時に負ったのだろう。

 コリンを傷付けたのは、間違いなく尋香だ。

 晃は、大きく息を吸い込むと、周囲の音に耳を澄ます。

 水原二等官や、益田三等官たちE隊の動く音以外、他の人間の物音は聞こえない。

 息を潜めた街の中には、だが、確実に尋香という、牙を持つ女戦士たちが隠れている。

敵の気配に注意を払いつつ、晃たちとE隊は、店の扉の前を離れた。

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