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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第五章 観るもの
57/113

8

「尋香は、我々特殊警邏隊隊員でも、素手では倒せない相手です。お二人には、なるべく

尋香との接触を避けて、センター内に突入していただきます。ですので、この銃は、あく

までも護身用です」                               

 簡単に使用方法を説明すると、水原二等官は浅野と晃に銃を渡した。手のひらに収まる

ほどの小型銃だが、初めて武器というものを手にした晃は、銃身の冷たい感触に、一瞬、

身震いした。

 水原二等官は、強い目で晃と浅野を見た。

「ビル北側の業者用の通用口から、センター心臓部である、ビル地下に向かって下さい。

地下二階が、この世界で採集されたあらゆる生物、非生物のデータが保存されている、免

疫センターのメイン・コンピュータ室です」

 メイン・コンピュータのデータバンクに、美鈴の記録もあるはず。しかし、メイン・コ

ンピュータには間違いなくセキュリティー・ロックが掛けられているだろう。ロックを外

し、膨大なデータの中から、美鈴や笠井由利香二等官の情報を拾い出すのは、内部の職員、

それも、よほどデータに詳しい人間でなければ無理だ。

「センター内部に、《奇跡の羽根》の人間が入り込んでいるんすか?」

 晃の問いに、水原二等官は大きく頷いた。

「《B—2》という人物が、お二人をサポートするようになっています」

「コードネーム、ですか?」浅野の質問は、晃も思ったことだ。

 水原二等官は、表情を変えるでもなく「そのようなものです」と答えた。

「我々も《B—2》については、あまり詳しくは知らされていません。ですが、《奇跡の

羽根》のリーダーが信頼している人物なので、信用できると考えています」

 本名を仲間にも明かしていないのは、多少妙ではある。が、ここまできてあれこれ詮索

しても仕方がない。

「分かりました」と、晃は短く了解した。

 簡単な作戦説明を聞き終え、晃たちは、水原二等官を先頭に、一列になって螺旋階段を

登った。長年ずっと使用されていなかった鉄の階段は、錆び止めの赤い塗装が無数に罅割

れてささくれ立ち、手袋をしていない晃と浅野は、手すりを掴むことに躊躇を覚えた。

 三階分はあるだろう階段をどうにか上り切り、細い鉄橋を渡る。水原二等官が、鉄扉の、

レバーハンドル式のノブに手を掛けた。

 扉が開く。ぷん、と、真樹区外縁独特の、饐えたスラムの臭いが、微かな夜の空気の流

れと共に、入ってくる。

 水原二等官が、まず扉の外へ首を出し、素早く周囲を確認する。

「……まだ、この辺りは大丈夫なようです。出たら、すぐに右隣のビルの一階の店へ入っ

て下さい」

 さしもの特殊警邏隊隊員も、かなり緊張しているのだろう。硬い声で早口に指示すると、

水原二等官は、するり、と、表へ出た。

 次いで、麻生が出る。慌てた風もなく堂々と扉を跨いだ隻腕の男の後ろに、浅野と晃が

続いた。

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