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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第五章 観るもの
55/113

6

「ああ。俺も、兄貴から特殊警邏隊の設立を聞かされて、何でそんな部署を作るのかと、

その時は思った。でも、水原さんや笠井さんの話を聞いて、父が何をしたかったのか、や

っと分かったよ。父は多分、日野の妹さんの件も知ってた。だから、コリンを匿うのを買

って出たんだ」

 浅野は、柔和だが厳しさを秘めた笑顔を、晃に向けた。

 晃は、自分が一人でここまで来たわけではないことを、初めて痛感した。

 内臓を全てを抜き取られていた美鈴の遺体を見て憤り、真実が知りたくて闇雲に進んだ。

最初は何も見えぬ行く手に、やがて、コリンという少女が現れた。コリンは、晃の真っ暗

だった足下に、妹美鈴に繋がる一筋の光をくれた。

 光を辿り前へと進むうちに、浅野が、八木が、麻生が、木村女史が現れ、次々と扉を開

いてくれた。

 全ては、偶然ではない。真実を知ろうとした行動が、晃を今ここまで導いている。晃の

周囲に、志を同じくする仲間を、呼び寄せている。

「急ぎましょう」と、水原二等官に促され、晃と浅野は再び歩き始める。

 地下道の、湿ったコンクリートを踏み締めながら、晃は思った。

 仄かなハロゲンライトの明かりだけが頼りの薄暗い地下道を、晃たちは歩き続けた。先

刻、麻生と降りたばかりの『シャトー・オブ・ウインド』への階段を通り過ぎる。

 二百メートルほど先に、T字路が現れた。先頭の水原二等官が、T字路を左に進む。

 ほとんど平坦なコンクリート道を黙々と歩き、地上へ通じているらしい階段の前を、い

くつも通り過ぎる。

 昼から動きっ放しの上に、長時間に亘って硬い路面を歩行した疲労が、晃を徐々に俯か

せる。尋香に体当たりを喰らい、大破するエアカーから八木と共に転がり出た時に打った

箇所が、今頃になって痛み出す。

 顔を歪めた晃に、振り返った浅野が「大丈夫かい?」と声を掛けた。

 浅野の声を聞いた水原二等官が、後ろを向いた。

「あともう少しで、真樹区南外縁の出口に着きます。頑張って下さい」

 防護手袋の、控えめなガッツポーズに、晃はどう返していいのか分からず、中途半端に

片手を、胸の辺りまで挙げてみせた。

 地下道は、直後に大きく右にカーブした。

 百メートルほど右曲線が続き、次に左へ鋭く曲がると、直線に戻った。

「この先が、地上への出口です」

 前方を指差した水原二等官の防護服の胸ポケットから、突然、携帯電話の呼び出し音が

聞こえた。水原二等官は足を止め、胸ポケットのファスナーを開ける。

 風防を上げ、携帯端末に取り付けた、折り畳み式のイヤホンマイクを、ヘルメットの中

へ差し込んだ。

「こちら水原。……了解しました」

 静かな声で短く応答し、通話を切った水原二等官に、浅野が驚いた顔で尋ねる。

「携帯は、使用可能なんですか?」

 晃も、浅野と同じ気持ちで、思わず水原二等官の横顔を見た。

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