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「ここのガラクタは、曾祖父と祖父が長年ずーっと使用していたものが大半なんだ。でも、
祖父と父がわざわざ外縁辺りで買って来た二束三文の品もあるんだ」
感心しているような、面白がっているような顔で、「よくこれだけ集めたよな」と、浅
野は肩を竦めてみせた。
晃は少しだけ苦笑し、真顔に戻した。
「でも、よく保安官から逃げおおせたな」
「保安官たちは呼び鈴を押す前から、全員が荷電粒子銃を構えていた。最初から俺たち家
族を捕えるつもりだったんだ。玄関のモニターで確かめた俺は、母と妹を先にこの部屋へ
行かせてから、応対に出た。案の定、保安官たちは俺と弟を捕まえようと、ドアを開けた
途端に飛び込んで来た。けど、こっちも身構えてたから、全速力で廊下を走って、この部
屋へ逃げ込んだんだ。相手は日頃から厳しい訓練を積んでる保安官だし。本当に、どうし
て捕まらなかったのか、不思議なくらいだよ。ともかく息切らしてここへ逃げ込んで、急
いでドアを閉めたんだ」
「で、ドアを開けたら、このごちゃついた骨董とガラクタの山に邪魔されて、保安官は追
って来られなかったってわけか」
晃は感心しつつ、改めて左側の壁の先の扉から、地下道への隠し出入り口の前まで、人
一人がやっと通れる通路を作っている品々を見回した。
「それが、違うんだ」一旦言葉を切ると、浅野はにんまり口の端を釣り上げた。
「ラッキーなことに、俺がこの部屋の扉の内鍵を掛けたと同時くらいに、どうやら公安本
部から引き上げ命令が出たらしいんだ。ドア越しに、保安官の一人が大声で『本部隊から
連絡が入った、一時撤収だ!』って怒鳴ったのが聞こえたのさ」
「撤収命令を叫んだのは、間違いなく、こっちの味方の保安官だ」
麻生が「何を今さら」という顔で、浅野を見た。
「同じく味方で内勤の保安官が、副局長のご家族の捕縛命令が出たのを受けて、うまく仲
間の保安官を小隊に組み入れたんだろう。その保安官が、君たち兄弟の捕縛を防いだ」
「ああ、そっか……。よく考えれば、そうですよね」
浅野は、頭を掻きながら照れ笑いをする。
「俺たちみたいな素人が、日頃から訓練をしている保安官に捕まらないわけがない。きっ
と味方の保安官が、他の連中が追い付かないように工作してくれたんですね」
廊下側の扉から、先に部屋を出た木村女史が、ひょいと顔を出した。
「早く! もう、迎えのエアカーが、門の前に来ています」
浅野と晃、麻生は、急いでガラクタの通路を抜けた。