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「先程も申し上げたように、私たちの仲間は、公安の内勤保安官にもいます。迎えに来た
仲間たちへ疑惑が向かないように、内勤の仲間が工作してくれます」
「内勤の人たちまで……。そこまで組織が広がっていたんですね」
浅野は「分かりました」と、ようやく笑顔を見せた。
「さあ、そろそろ迎えの車が到着している頃です。上へ出ましょう」
昇り始めた木村女史に続き、晃たちも階段を上がった。
階段の幅は一メートルほど。十二段あり、上がり切ったところは、階段の幅と同じくら
いの奥行きの踊り場だった。踊り場のコンクリート壁の左側に、一見したところ一般的な
集合住宅の玄関扉の寸法、高さ二百十センチ、幅九十センチとほぼ同じであろう鉄扉が、
取り付けられていた。
小さな裸のハロゲンライトに照らされた、地下道のものと同じく錆び止めの赤いペンキ
を塗られた鉄扉の内鍵を、木村女史が回し、扉を引き開ける。
前を歩いていた浅野が入口を一歩入ったところで止まった。晃は麻生の脇から、頭だけ
扉の内側に入れ、内部を見た。扉の内側は、奥行きが八十センチくらい、幅が二メートル
くらいの、細長い部屋になっていた。
部屋には明かりが全くなかった。階段の踊り場のハロゲンライトの僅かな明かりが、入
口付近をぼんやりと照らしている。
明かりの輪から足早に抜け出し、細長い部屋を左へと移動した木村女史は、突き当たり
の壁へと寄った。壁には、床面から約一メートルの高さに、直径十センチほどの丸い光が
点っている。なにかのスイッチか、あるいは操作板の位置提示用のライトなのか。
考えながら晃が見詰めていると、木村女史は、淡く点る青い光の上に、包むように手を
乗せた。途端、二メートルの正面壁の下側に長方形の穴が現れた。
『シャトー・オブ・ウインド』の地下への入口と同じような間口の出入り口だった。
木村女史は壁の向こうを窺うと、一歩そっと下がり、浅野の母に先を譲る。浅野の母と
弟妹、木村女史が順次、出入り口の向こう側へと消えていく。
晃は浅野に続き、出入り口を潜る。
出た先は、いろいろな生活用品が雑多に置かれた、物置きのような場所だった。
見たところ、晃がいる位置から正面の壁までが、約五メートル。横幅は一・八メートル。
二十センチ角の、色の違うウッドパネルが交互に敷き詰められた床面は、少々埃が積もっ
ているものの、以前コリンが匿われていた部屋のものと、ほぼ同じである。
物置きのような部屋が浅野の家の離れであることに気が付いた晃は、驚いて浅野を見た。
「ここ……!」
「うん。コリンを静養させてた離れだよ。この部屋は、祖父が生きてた頃からずっと物置
きとして使ってたんだ。……地下道への入口をカムフラージュするためにね」
浅野は、おどけてウインクをした。
「これだけ品物がごちゃごちゃあると、侵入者が追って来ても、障害物だらけで、なかな
か追い付いて来られないだろ?」
「確かにそうだな……」晃は、LEDシーリングライトの下に置かれた、いかにも年代も
ののカート付きの肘掛け椅子や、壊れて動かなくなった旧型のモーター式セルフワゴン、
自動掃除機などをしげしげと眺める。逃げる際に、これらの品物を使って通路を塞げば、
敵は退けるのにかなり手間取るだろう。




