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「俺……は、コリンに会わなきゃならない」
晃は茫洋と呟いた。
コリンに会っても、妹とコリンの繋がりなど、分からないかもしれない。それでも、話
を聞かないよりはマシだ。
晃は、この場で唯一、コリンの連れて行かれた先を知っているはずの麻生を見た。麻生
は左腕を腰に当て、渋い顔をする。
「確かに、コリンの身は心配だ。だが、なぜ君は、そんなにコリンにこだわるんだ? コ
リンと君に、どんな関係があるんだ?」
晃は一瞬、迷った。美鈴と自分だけの思い出を、コリンが知っているかもしれないとい
う仮定を、麻生に言うべきかどうか。
ただの思い過ごしかもしれない。確証のない思い込みで、麻生や他の人間に迷惑は掛け
られない。
言葉に詰まって俯いた晃の隣に、浅野が立った。
「僕も、日野はコリンに会わなければならないと思う」
きっぱりと言い放った浅野に少し驚き、晃は目を上げる。
浅野は横目で晃をちらりと見て、微笑んだ。
「日野は、コリンの中に妹の美鈴さんの面影を見ているんです。コリンが、美鈴さんの何
かを、もしかしたらメッセージか何かを知っているかもしれない。なら、日野はコリンを
助け出して、その言葉を聞かなければいけないんです」
麻生は、浅野を睨み付けた。浅野は麻生の鋭い視線を睨み返し、続けた。
「コリンは、少しずつ人らしい感情を回復していました。初めはガイノイドじゃないかと
思うほど、無表情だったのに。コリンが変化したのは多分、日野と出会ったからだと思う
んです。日野を見て、コリンの中に凍っていた記憶が、ゆっくり解けていった。そんな感
じだったんです。だから……」
「……コリンを連れ出すのは、容易じゃない」
麻生は、絞り出すように言った。
「尋香を飼っている免疫センターの場所は、分かっている。だが、無闇に侵入はできない。
俺たちも仲間を助けようと、侵入経路を探した。しかし、二百年前の厳重なセキュリティ
ーが現在でも生きていて、侵入者を完璧に排除している。奇跡的にセキュリティーを掻い
潜れたとしても、それでもまだ、尋香たちに気付かれずにセンターに入り込むことは、ほ
ぼ不可能だ」
「どこなんですか? 免疫センターがあるビルは」
完全に侵入不可能なほど堅牢なビルとは、どこなのか? 本当に何としても、入り込む
ことは絶対できないのか。
逸る気持ちで、晃は麻生に訊く。麻生は険しい目線を、晃に据える。
「真樹区、センタービルだ」
一瞬、ぐっと晃は息を詰めた。
美鈴との思い出のあるセンタービル。あの美しいクリスタルの塔の中に、免疫センター
があるのか。
「どうしても、駄目ですか?」
浅野が強い声で麻生に問う。麻生は目を閉じ、「無理だな」と、力なく首を振った。