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「公安の保安部隊が、家に来たんだ。父を反逆罪で射殺したと言って」
「何だって?」自分たちが聞いた話とは違う。晃は、驚きに目を見開いた。
晃と同じく、公安の保安部隊が動いたことに驚いた麻生が訊いた。
「浅野副局長は、尋香に襲撃されたんじゃないのか?」
「尋香って?」浅野は眉を寄せ、不審そうに首を傾げる。
「例の女たちのことだ。尋香は、国立免疫センターの私兵なんだ」
晃の説明に、浅野は「ああ、なるほど」と頷いた。
「そういえば兄貴が、携帯で『尋香が』って言ってた。何のことか、さっぱり分からなか
ったんだけど、例の女たちのことだったのか……」
「それで、浅野副局長は……?」
保安部隊の話が事実なら、浅野にとっては一大事だ。晃は心配しつつ、浅野の表情を窺
った。
晃の懸念に気が付いた浅野は、薄く笑うと、きっぱりと言った。
「大丈夫だ。父は死んでない。イーデルランド大使館に同行してた兄から『襲撃はされた
が、命に別状はない』と連絡が来た。さっきも言ったけど、兄は『尋香が』って言ってた
から、間違いなく襲撃者は例の女たちなんだろう。兄貴は『自宅も襲われるかもしれない
から、用心しろ』とも言ってたんだ。けど、連絡を受けている最中に尋香たちが来て……」
晃は、その時になって、コリンがいないことに気が付いた。コリンの行方を聞こうとし
た先に、麻生が口を開いた。
「尋香たちが、コリンを連れて行ったのか」
浅野は硬い表情で「はい」と頷いた。
「尋香の一人が「コリンの姉だ」って名乗ったんです。「世話になっている妹を引き取り
に来た』って。渡しちゃいけないって思ったんだけど、コリンは『一緒に行く」って言い
出して。俺たちにこれ以上の迷惑は掛けられないからって。……コリンが出て行く直前に、
日野に伝えてくれって言った言葉がある。「もう一度、夕焼けのセンタービルを見たい」
って」
晃は内心、嬉しさとも驚きともつかない思いが湧き起こった。
夕焼けのセンタービル。朱色に染まるクリスタルの曲線の美しい景色は、晃と美鈴だけ
の懐かしい思い出だ。赤の他人のコリンが、知るはずがない。
もしかしたら、コリンは浅野の家にあった絵を言っているのかもしれない。しかし、な
らば浅野に告げればいい話だ。晃にわざわざ言伝る必要は一切ない。
美鈴との思い出を、本当にコリンが知っているのなら、どうしてか? コリンと美鈴と
は、どんな関係があるのか?