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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第三章 追うもの
35/113

10

 晃たちの乗ったエアカーは、急に何かに引っ張られたように、がくん、と後ろに振られ

た。

「なんだっ?」反動で前へのめり、慌てて手をダッシュボードに着いた麻生が、強持てを

驚きの表情に変える。

 木村女史が、麻生に強い声で答えた。

「車両緊急停止システムよ」

 自動走行中のエアカーに何らかの故障が発生した場合、交通統括メイン・コンピュータ

が強制的に問題車両を停止させられる。

 新市街に住んだことがあれば、誰でも知っているシステムではある。しかし——。

「それは事故対策だろう。この車両は事故なんか起こしていない」

 噛み付くような麻生の言葉に、木村女史は冷静に答えた。

「そうね。でも今、どうしてシステムが作動したかの説明をしている暇はないわ。……外

縁へ戻りましょう」

 木村女史は素早い手捌きで運転を手動に切り替えると、思い切りアクセルを踏み込む。

途端、減速していたエンジンの回転数が上がり、晃たち同乗者の体に重力がかかった。

 木村女史がハンドルを右に切る。スピードが上がり続けているエアカーは、大きく右へ

傾きながら、交差点を曲がる。

 途端、正面から二台の車が並走でこちらへ向かって来た。

『ナンバー5235、青のアルバトロス。市内道交法違反です。至急、そこで停止しなさ

い』

 公安道路安全部のメイン・コンピュータの音声が、周囲の強化アクリル張りのビルに反

響する。

 前からは公安の車両、後ろからは、例の女の車。晃たちが乗るエアカーは完全に前後を

挟まれた。

 エアカーの地上からの浮上規制高度は最高で百メートル。その高度を超える浮力を有す

る車種は、塔経市では販売を許可されていない。

 公安の車両は、右の車が地上二十五メートル辺りを、左の車は五十メートル辺りを滑空

して接近して来る。

 背後の女は、その間の三十五メートル付近で走りながら迫って来ていた。

 緊張して車外を見詰めていた晃は、妙なことに気が付いた。

 午後五時といえば、普段ならサラリーマンの帰宅ラッシュ時刻である。だが、街路には

三台の車以外には、一台も見当たらない。

 晃は遅ればせながら、嵌められたのだと分かった。

 飯山医院と浅野副局長の襲撃と聞けば、晃たちが動き出すのを計算して、公安と、例の

女たちの組織は罠を仕掛けたのだ。

 女たちの目的は、コリンを捕えることだけではない。麻生や彼の仲間、木村女史の言っ

ていた《羽化しても生き延びた人》の組織を潰し、捕えることだ。

 奴らの仕掛けはみごと成功し、今まさに、晃たちは捕えられようとしている——。

 あと数メートルで公安車と衝突するという距離で、木村女史は突然、車体を下方へ沈め

た。地面すれすれの超低空で滑空し、公安車両の真下をすり抜ける。

 車体の底が舗装面に幾度か接触し、火花が散り、衝撃が晃たちを襲う。

 囲みを逃れた——と思った瞬間、後方の女の車が体当たりを掛けて来た。

 衝突で加速のついた晃たちの車は、前方のビルの壁面に向かって滑っていく。エアカー

の前方部が紙細工のように無惨に潰れて行く光景が、晃の目にスローモーションのように

映る……。

 もう駄目か、と目をぎゅっと閉じた晃の体を、強い腕が引っ張った。

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