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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第三章 追うもの
33/113

8

 遮二無二、ぜえぜえ息を切らせて走り出た街路は、既に日が落ちていた。

 春の夕暮れの、オオトゲアレチウリの新芽の臭いを含んだぬるい空気が、コリンの元へ

急ごうと気が逸る晃の喉に、否応なく入り込む。

 南外縁から中奥区は遠い。塔経市が、いくらかつての規模の三分の一ほどしか面積がな

いといっても、徒歩で行ける距離ではない。

 風に頬を叩かれて、頭が冷えた晃は、すぐにでも飛んで行きたい気持ちを抑え、路線エ

アーバスの停留所を探した。

 LEDライトが天に向かって淡い照明を放っている街路全体に目線を走らせる。

 程なく停留所の緑色のライトを見つけ、そちらへ向かおうとした晃を、低めの落ち着い

た女声が呼び止めた。

「こっちよ!」

 振り向くと、向かおうとしていた場所の斜め反対側の路肩に、ブルーのエアカーが一台

停まっていた。運転席から木村女史が、顔を出している。

 助手席には麻生が、後部座席の右には八木が座っていた。

「乗って」木村女史は操作パネルを素早く触り、後部座席の扉を開けた。

 エアカーに駆け寄った晃は、開いた扉から滑り込むように乗車した。

「後先を考えずに飛び出すな」

 左側に腰を下ろした晃を、八木が渋い声で叱る。

 むっとする。だが、頭に血が上って見境がなかったのは確かなので、晃は素直に「すい

ません」と頭を下げた。

 木村女史が、車を発進させる。

「それにしても。どうして副局長は、旧イーデルランド大使館なんて場所へ出向いたんだ

?」

 エアカーの低いエンジン音に、八木の問いが被る。

「密告者がいたのよ。例の女たちの組織の全容を教えるという。その人物が、旧イーデル

ランド大使館での密会を指定して来たの。しかも、護衛はごく少人数で、という条件で」

「しかし、よくそんな見え見えな手に、副局長が引っ掛かったな」

 麻生が半ば怒ったような、呆れたような声で言った。               

 木村女史の、ベルベットのような艶のある、それでいて硬い表情の声が答えた。

「わたしも、そう思うわ。ただし、密告者がただの民間人だったり、塔経市の一職員だっ

たりすれば。けど、そうじゃなかった。あちらの組織は入念に罠を張ったの。副局長に情

報提供を申し出たのは、公安局長自身だったのよ」

 晃は愕然として、「それは……」と身を乗り出した。

 何で、公安局長が例の女たちの組織を知っているのか。いったい、どんな繋がりがある

のか?

 晃が疑問を口に出す前に、八木が口を開いた。

「公安局長までも一枚噛んでるのか。となると、浅野副局長の安否は難しいな」

 嶮を含んだ太い声に、木村女史が淡々と返す。

「そうね……。公安局は、今やセンターに牛耳られてるわ。局長も、センターの言いなり

よ。わたしたちの活動も、そろそろ限界かもしれないわ」

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