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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第三章 追うもの
28/113

3

登詩磨区の市立大図書館。

 レリア・ウイルス流行の百年以上も前に建てられた建物には、真樹区の廃ビルにすらあ

るコンピュータ管理システムのいくつかの制御機能が存在しない。

 例えば、広い館内に三台ある大型の空調は旧式の据え置きタイプで、稼働させる時は、

一台一台、職員がスイッチを入れて歩く。

 照明もそうだ。スイッチこそ窓口のカウンター内にあるものの、点灯する時は配置を確

認しながら、職員が手動で押さなければならない。

 建物の設備で館内のメイン・コンピュータが管理しているのは、人の手の届かない高窓

の開閉と、正面玄関の施錠くらいである。

 そんな骨董品級の公立図書館を、では、なぜ市は建て直さないのか。

 予算がない、というのが、最も一般的な理由と思われている。

 図書館に所蔵されている書物、資料は、数億万点とも言われている。館は地上三階地下

三階の建築だが、一説によれば、それよりさらに下の地階が存在するという。

 図書館には、一年から前のあらゆる事象の資料が収められている。無論、公安局が取り

扱った事件や事故の記録も、たとえ係争中であっても、閲覧できる範囲の資料は全て開示

されていた。

 美鈴の事故も、起きてから今日で一年になる。

 晃は、この日を待っていた。

 事故の詳細は、一年前、妹の遺体が解剖から戻された時に付けられていた報告書に全て

記載されている、と公安局は言っていた。しかし報告書には、美鈴がどこの医療機関で司

法解剖されたのか、どうして内臓が残されていなかったのかという理由は、明記されてい

なかった。

 公開される文書が、あの時に渡された報告書と異なるものかどうかは分からない。しか

し、せめてどこの機関で解剖されたかくらいの情報は載っていないかと、晃は縋る思いで

図書館へきた。

 旧式の不正持ち出し防止用のポールの間を通り、晃は真っすぐに検索用端末へ向かう。

 開架室の中は、平日ということもあり、来訪者の姿は少なかった。

 端末機は円形の透明ポリカーボネイト製の案内版の周囲に十台、設置されている。

 隣との距離はかなり近いが、保護シートを画面上に貼付けてあるので、真正面に立たな

いと内容は見えない。

 晃は、熱芯に画面を操作している大学生風の若者の右隣の端末を起動した。

 タッチパネルのボタンを押すと、軽い起動音とともに画面が待機から切り替わる。晃は、

最近、閲覧可能になった事故資料の欄を開けた。

 事故資料を検索する時には、関係者の一人の名を入力すれば大概は表示される。迷わず

美鈴の名を入れた。だが、ヒットしなかった。美鈴の大学名、事故当時エアカーに同乗し

ていた学生の名も検索したが、いずれも当たらない。

 まだ開示になっていないのか。諦めて端末機を離れようとした時。

 背後から不意に二の腕をぐっと引かれ、八木の渋い声が頭の上から響いた。

「目当てのものは、その玩具おもちゃじゃ、出てこないぞ」

「八木さん! どうして、ここへ……?」

 驚く晃の腕を掴んだまま、八木は口を真一文字に引き結び、歩き出す。

「ちょっ……」

 強い力で引かれる痛みに、晃は顔を歪める。晃の様子などお構いなしに、八木は大股で

図書館のフロアを進んだ。

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