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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第二章 風に問う
22/113

9

 どれくらいの時間、気を失っていたのか。

 気が付いた晃が最初に見たのは、灰色の四角い照明板だった。一辺が三十センチの照明

板がいくつも整然と並んでいる。

 照明板には細かい孔が空いており、孔の一つ一つにLEDが付けられている。照明板を

何枚点灯させるかで、室内の明るさを調節する。

 ぼんやりと照明の仕組みを考えているうちに、晃は意識が現実に戻った。

 照明板が見えているのは、自分が寝ているからだ。だが、見ている照明板の配置は、見

慣れている自宅ものでも、勤務先のホワイト・ウインドのものでもない。

 では、どこで寝ているのか。

 晃は天井以外の周囲も見ようと、上体を起こした。途端、男の声が晃の動きを制した。

「まだ寝とけ」

 聞き覚えのある声音に、晃はそちらを振り向く。頭の方向に、麻生が座っていた。

「竹内ビルに知り合いを訪ねて行ったら、エレベーター脇で君が転がっていた。病気か事

故か分からなかったんで、知り合いの手を借りて、ここへ運んだんだ」        

 麻生は簡潔な説明をすると、奥から出てきた人物を顎で指した。

 旧式な白衣に見覚えがあった晃は、自分を見て破顔した医師に、あっ、と声を上げそう

になった。

「ここは、飯山医院。君が倒れていたビルからは、ちょっとあるがな」

「麻生さんから連絡を貰って、すぐにエアカーを出したんですよ」

 飯山医師は、手を洗うために捲っていた白衣の袖を元に戻しながら、晃が横になってい

た診察用の寝台の脇に、自分の椅子を押して座った。

「でも、よかった。ちょうど弟が車でここに来ていたんで、あなたを簡単に運ぶことがで

きました。幸い、怪我も大したことがなくて」

 晃は「ここだ」と指した麻生の指先を見上げ、自分の額に触れる。どうやら、頭を殴ら

れてた時、うつ伏せに倒れたために額を打ったようだった。

 額の右側に張られたガーゼと絆創膏に触れ、晃は「ああ」と納得する。

「側頭部の打撲も大丈夫ですよ。しばらくは、痛いでしょうけれど」

 飯山は晃の右のこめかみに触る。途端、ずきっという痛みが走り、晃は顔を顰めた。

「気をつけろよ」麻生が立ち上がった。ふわり、と麻生の体から例の花の香が立ち上る。

「あんまり奴らを刺激するな。監視されてると分かっても、無視してるほうが利口だ。こ

っちに手を出して来ないうちは、放っておくほうがいい」

 じゃあな、と、コリンを助けた夜と同じように、麻生は片手を挙げて飯山医院から出て

行こうとした。

「あ、あの」晃は、麻生の背を引き止めた。

 麻生には、聞きたいことが山ほどある。八木とはどういう付き合いなのか。本当に幼馴

染みなのか。右腕は、どうして喪失したのか。なぜ、体から花の香がするのか。

 しかし、晃の口をついて出たのは、そのいずれの質問でもなかった。

「その……、奴らって、誰なんだ?」

 麻生は、ゆっくりと向き直った。八木とはまた趣の違う男臭い顔が、渋い表情に歪む。

「君は部外者だ。そういう詮索は止したほうがいい」

 晃は、むっとする。

「部外者? 監視されて、頭を殴られて。これでどこが部外者なんだよ。俺の頭を殴った

奴のことを、俺が知って何が悪いんだ」

「奴らを深く知るのは、危険だと言ってるんだ」

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